神のミスにより転生した者〜幼児化したけど、異世界生活楽しむぞ!〜

@iza40

駄女神ウルシアのミス


「ふぅ~、今日も疲れた~」

 花の金曜日‥‥コンビニで調達したビールとオツマミを手に、歩道を歩いていた寺尾てらお美桜みおは、突如として出来た歩道の亀裂から落ちたのだった。目視出来ないほどの暗く深い空間へ。


「‥‥ださい。起きて下さい!」


 なにか聞こえるが、すごく寝心地が良いお布団は離したくない。


「だめ‥もうちょっと‥‥」

「お願いですから、起きてください!」

「あと5分‥「起きてください!」‥おっとぉ!?」


 微睡みの中で感じた不穏な殺気に、私はその場を飛び起きた。


「はっ!わたしったらまたっ!?」


 眠りから覚めた私の目に映ったのは、わたわたと慌てているゴージャス美女だった。というか、ここはどこ?


「‥また?とはなにがかのぉ?」

「ひっ!?創世神様!!」


 しわがれた…だけど威厳で深みのある声に、美女は怯えた。あれ、またなんか増えた??しかし創世神様とは…いったい、なにが起きてるの?


「‥説明するのじゃ、女神よ」

「はぃぃ!!」

 

 女神と呼ばれた女性は、背筋をピンッと伸ばし、身振り手振りで必死に説明をしていた。私のことは、完全空気である。ついでだから、一緒に説明を聞いたよ。


 女神が話した内容はこうだった。地球神の誰かさんと喧嘩をしてしまい、つい力加減を間違えて放った神気がスパークしてしまい、地割れ発生。そこへ私が落ちたらしい。そりゃ、一発KOだね。


「すまなかったのぉ‥お嬢さん」


 説明を終えた女神に背を向けて、こちらを振り返った老人は、私に頭を下げてきた。


「‥え?いやいや、悪いのはそちらの女神?さまですよね。創世神様は何も悪くないですよ!」

「‥それでもじゃ。儂には、こやつの監督責任があるでの。儂は、この世界の創世神ガイアという。管理は、そこの女神に任せとるがな」


 その表情には後悔の色が強く現れ、沈痛な面持ちになっていた。女神?…あっ、バケツを持って、立たされてますね。昭和かよ!?


「‥‥そうですか。私は寺尾美桜といいます。というそれで、私は元の世界に帰れそうですか?」


 はい、キタコレー!!と異世界あるある殿堂入り「神様のドジで異世界転生or転移しちゃった!」の状況にワクテカしながら、神妙な顔つきで質問した。雰囲気作りは大切である。死んだから還れないのは分ってる…いやもしかしたら、ワンチャンあるかも!?と、僅かな希望を抱きながら聞いてみた。


「お主も好きじゃな‥‥」

 しかし先程の様子はどこへやら、今は呆れた表情を隠すこともせずに私を見ていた。


「え?なにがで‥‥あ~、心の声がだだ漏れですね」


 神界あるあるじゃん!忘れてたわ。私は自分が思っているより、興奮しているらしい。ラノベを読み漁り、いつか私も異世界に‥なんて夢見ていたけど、ほんとに訪れるなんて思わないジャナイカ!!


 というふうに、ラノベを読み漁ることを趣味生き甲斐にしている同志は、今後の展開が読めるのではないだろうか?


「その異世界あるあるバイブルの知識があれば、今後の展開は分かるじゃろ?さあ、どこの世界への転移を望むのじゃ?また、スキルなどの希望はあるかの?」


 ブォンッ!と音を立てて現れた透明なボードを前に、神様は説明を始めたのだった。


 フゥ~!選択タ~イムッ!などと舞い上がっていた私は、後に訪れる悲劇を、まだ知る由はなかった。


「さてさて、私のスキルをどうやって決めようかな?」

「うむ。これが、現在のお主のスキルじゃな」


『スキル 行儀作法4 事務処理5 商談4 体術4 剣技3 語学4』


「おおぅ、見事に人生の経験が反映されとる。えっと‥4が4つと3と5が一個ずつか‥」

「お主は魂の状態だからの。スキルのみの表示にさせてもらったからの。ちなみに1が初心者、2が初級、3が中級じゃ。お主が一番多い4は上級じゃな。5が達人じゃのぉ。お主は商会向きか?」

「そうですね。日本では、会社員でしたし。異世界ではどこかに定住して、たまに旅をしたいですね。そうすると、冒険者か商人ですかねぇ?‥兼業もありかな?」

「ふぉふぉふぉ!夢が広がるのぉ」


 私は創世神様と話しながら、対面に現れたボードを眺める。すると、選択可能な異世界の説明文が広がっていた。


「えっと‥‥

 『①愛と希望と夢がいっぱい詰まった世界

 注釈:愛と性と夢の開放を目指した世界。人類が爆発的に増加傾向中。近い将来、神の采配により自然災害が頻発するかも?  

 ②最弱認定の人族が滅んだ異種族が支配する世界 注釈:魔人・獣人・亜人が覇権を争いながら暮らす世界。人族は滅びて存在しない。見つかればおもちゃになるかも?

 ③精霊情緒豊かファンシーな世界

 注釈:悪戯好きな無垢な精霊たちが暮らす発達途中の世界。まだ人族や亜人族などは存在しない。見つかればこれもおもちゃになるかも?

 ④お待たせ!剣と魔法のファンタジーな世界だよ!美桜ちゃんの好きな中世時代のレベルだよ!戦争もあるけど、平和な国も多いから、そこがオススメ!注釈:もはや選択肢を与えない異世界選びで、上記の異世界が一番まとも。説明は必要ないプッシュ圧を感じます。』‥‥ってなんじゃこれ!?」


 あまりな選択肢に、私はグリンっと音がする勢いで、創世神様に向きなおる。


「創世神様、なんなんですか?この巫山戯たチョイスは?本当に選ばせてくれる気ありますか?この異世界の数々は、創世神様が作ったんですか?本気で仕事する気あります!?私が行けそうでマトモな世界が一個しかないって、明らかに、異世界作り失敗してますよね!?」

 ぜぇぜぇハァハァと、ノンブレスでまくしたてる私に、駄創世神は床?に膝を付き蹲った。

 

「じゃって、儂は世界の種は蒔けるけど、その後は手出し出来ないんじゃもん。その地の神たちに任せるしかないんじゃもん。今回だってあの畜生女神がやらかしたから、こうやって謝罪に来たんじゃもん」


 あかん、完璧にイジケている。床にのの字を書くいい年?した神様が、『じゃもん』って。

 確かに、創世神様のような偉大な神様の大きな力が干渉してしまうと、世界のバランスが崩れるから、下手に手出し出来ないっていうのは聞いたことがある。


「あ~‥‥スミマセンでした、神様。私が知識不足でした」


 ミスをした営業先に謝罪するように、ペコペコと頭を下げる。あぁ、異世界の神界に来てまで、私はなにをやっているのだろう?


「さて、異世界先は④で構わぬな?そして、スキルはなにが欲しいかのぉ?」


 復活した神様に聞かれた私は、

「そうですね。まずは、初心者三点セットは外せませんね」

 と、人差し指を立てた。

「三点セット?」


 首を傾げて不思議そうに聞く神様。お髭がモコモコしている。


「はい。日本人が、急に異世界に言っても言葉は通じない。土地勘はない。菌には耐性がない。学歴や職歴がない。森を彷徨っても、植物の知識もないから、採取も食事も命がけ。そんな転生者の為の三点セットが、言語理解、鑑定、アイテムボックスなんです」

「ふ〜む、確かにのぉ。ちなみにアイテムボックスに、生活用品を入れておくのかの?」

 

 お髭を撫で付けながら、更に聞いてくるので、私の説明は続く。


「そうです!あちらの服と下着を数日分、水、ナイフ、調理道具に食器、スプーン等数点、アイテムバッグと見せかけた鞄、一ヶ月くらいの生活費と多用な食材がセオリーです!」

「なるほどのぉ…よく考えられておる。ほんに、日本は想像に富んだ民族じゃ」

「お褒め頂きありがとうございます。私も、神様の喧嘩の余波に巻き込まれなければ、本当にあるとは思えませんでしたしね」


 願ってはいても、所詮地球は科学社会だ。摩訶不思議な出来事は、世の中に溢れているが、実際に体験しないと信じられないものだ。とくに、世間の世知辛さを学んだアラサーには。


「後は、病気になった時に備えて、薬を作れるスキルが欲しいです」

「ふむ、確かにな。せっかくお詫びとして転生してもらうのに、すぐに死なれては困るからのぉ……どれ、こんなところかの?特別隠蔽と称号は、儂とウルシアからのせめてもの詫びじゃ」

「ありがとうございます。でも、特別隠蔽ってなんですか?」

「鑑定上位スキルの神眼でも見破れぬ、とっておきの隠蔽じゃよ。ミオは、称号が称号じゃからな」

「おぉっ!ありがとうございます!たしかにこれは助かりますね!……へんな輩は、どこにでもいますし」

「あぁ、気をつけて暮らすんじゃぞ。では、これがミオの最終決定スキルじゃ!」



【 属性 火 水 風 土

 スキル 行儀作法4 事務処理5 商談4 体術4 剣技3 語学4 MAP1 鑑定1 調薬1 

 ユニークスキル 言語理解 アイテムボックス無限収納 特別隠蔽

 称号 異世界転生者 創世神ガイアの加護 女神ウルシアの加護】


「おぉ、凄い!豪華なラインナップ!」

「後のレベルアップは、ミオ次第じゃて」

「ありがとうございました!」

「よいよい。…おぉ、そろそろ時間じゃな。気を付けてな」

「行ってきます!」

 

 周囲が淡く光りだし、私の意識は静かに沈んでいった。


 必死に追いかけてくるウルシアの姿があったことなど知らずに。

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