第75話 上に立つ者の覚悟と矜持
聖女アダムスを殺して欲しい。
慎み深い彼女の口から出たとは思えない程、強い口調と決意が感じられた。
「穏やかな発言ではありませんねテレジア様」
「……はい」
「理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
ルイス国王にそう尋ねられたテレジアは、静かに口を開いていく。
「私は良い行いをすれば、人に優しくすれば、優しくされた方も嬉しくなり他の人に優しくする。そうやって輪廻のように巡り廻っていき、人が! 国が豊かになると思っていました。その日々の生活の中で、宗教が手助けしてくれると信じています」
「ですが、私の力だけでは、信仰だけでは救う事が出来ない……人達も居るという事が分かってきました。どうずれば平和で豊か、人々が笑って暮らせる世界を創造する事が出来るのか? それには知識も経験も、胆力や権力、人材も人格もお金も必要なんだと知りました」
「ルイス国王は、未熟で稚拙な私の考えを汲んで下さり、その為に出来るだけの協力をして下さると言ってくれました。嘘ではなく本心からです! ですので、私も決心したのです……腐敗しきったミリア教を直したいと。宗教と信仰心は、私腹を肥やす為に使われる道具であってはなりません。人々を豊かにするもの、人々の生活と共にあるべきものだと思っています!」
「だからこそ今のミリア教の聖女を殺して欲しいのです。その後は、私が声を上げ、賛同者を集めれば、無血で国を明け渡す事が出来るでしょう……」
テレジアが今なんて……?
国を明け渡すって言ったよな?
「テレジア様。ミリア教の聖女アダムス様を暗殺すれば、私達に力を貸して頂けると? 国を説得し、国を明け渡して頂けると?」
「はい」
「ジャン! 勿論お前なら可能だろ?」
「勿論です。お任せ下さい」
「その聖女アダムス様の居場所は、分かるのでしょうか?」
「聖都にあるミリア教の総本山の教会に居るでしょう。その教会にある『聖女の間』に引き篭もっていると聞いています。『聖女の間』には特別な魔法がかけられており、そう簡単に侵入も破壊も出来ないそうです」
「しかし、必ず週に一度外出して、アダムス様は食事をします。厳重な警備の中ではありますが、暗殺するのであれば、その時がチャンスだと思います」
「その『聖女の間』には聖女しか入る事が出来ないのでしょうか?」
「はいその通りです。聖女になった時に贈られる聖女の杖にしか反応せず、開けられるのは聖女だけなんです。さらに杖を持っていないと中に入れないのです」
(やけに詳しいなこいつ……)
「テレジア様、ミリア教について随分詳しいですね」
俺の気持ちを代弁するかのように、ルイス国王がテレジアに聞いてくれた。
「私の母親が……総本山にいましたから」
そう言って俯くテレジア。表情は変わらないがどこか寂しげだった。
「テレジア様に一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
そう言ってジャンが一歩前に出る。
「何でしょうか?」
「テレジア様は今までとても清く生きてきたと思います。そう私は感じました。しかし殺して欲しいと望んだ、そのたった一言で人が死にます。自分の発した一言で人が死ぬ。死んだという事実を受け入れられる覚悟はありますか? その罪の意識を死ぬまで
ジャンは強くも優しく、諭すようにテレジアに向けて言葉を並べた。
「私は、今までの自分と決別する覚悟です! 現在ミリア聖国に住む人々の為に働き、力を使い、十字架を背負う覚悟があります!」
「分かりました。 ミリア教聖女アダムスの暗殺はこのジャン・アウルにお任せ下さい! それで聖女が外出する日というのは、いつなんでしょうか?」
「明日です」
「「えっ!?」」
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