第6話 突然の訃報と戦

 「ジャン、あなたどうやって急にあそこまで強くなったの?」

 「どうって言われてもロベルタ様、ただレベッタ先生から指導してもらっただけです」


 「なによその口調は! なんだか気持ち悪い」

 「そう言われましても……」


 「まあいいわ、ふぅ〜……あなたに言った数々の無礼を謝りにきたの。あなたは三傑に恥じない実力をあの場で見せたわ。ごめんなさい」

 ロベルタが頭を下げている。


 「頭を上げて下さいロベルタ様。謝る必要なんてありませんよ……それにあの日はたまたまかもしれませんし」

 「たまたまでやられる程、私の剣はぬるくないわ」

 ロベルタは頭を上げ、真っ直ぐこちらを見つめている。


 「私は初めて同年代の人間に負けた。ジャンは私に勝った事を誇っていいと思うわ! でも次は負けない」

 スッと右手を差し出してきた。


 「何を変な顔してるのよ握手よ! 握手!」

 「え!? あ!? はい」


 握手を交わす。

 「それじゃあ」

 ロベルタはその場を立ち去っていく。


 (何さっきからじっと右手見てるんだよ)

 「ロベルタの手のひらが、岩みたいに硬かった」


 (才能だけじゃないって事だろきっと)

 「女の子なのにあんな手してるなんて驚いたよ」


 (それよりこの後、レベッタ先生の躾タイムが待ってるぞ)

 「それはユウタのせいなんだから、ユウタが受けなよ」

 (たまには替わってくんない?)

 「適材適所なんでしょ?」

 俺らはいつものようにレベッタ先生の元へと向かい、訓練を始める。


 「グハッ! あれ? 先生、俺って強くなったよね? でも先生と戦うと自信無くすんだけど」

 「まだまだ実力不足って事だろ? それに今は自信がない位でいい」


 「俺はもっと強くなりたいんだよ」

 「ロベルタ嬢がさっき私の所に来て、鍛えて下さいって来たぞ。次はロベルタ嬢に勝てないかもな」

 ハッハッハとレベッタ先生は高笑いをした。


 「ロベルタはやっぱ強いですか?」

 「ありゃあ天才だろ! でも一人で1000人とか相手できる訳じゃない。大きな戦になればなるほどな。お前は今後どうなりたいんだ?」


 (どうなりたいんだ?)

 「僕は昔のような、三傑と呼ばれていた頃のアウル家の輝きを取り戻したいんです!」


 「そうなんだ。じゃあこのロア王国で活躍しないとそれは難しいよな。戦闘技術を磨くのもいいけど勉強もしておけよ!」

 「勉強は結構得意ですから……」


 「今日はこの辺にしといてやる。風邪引くなよ」

 「ありがとうござい……ました」


 それから月日が流れ、一年が経とうとしていた。

 日夜勉学とレベッタ先生と戦闘する日々を過ごした。


 (今日も退屈な授業か?)

 「ユウタもちゃんと授業聞いたら? 全く聞いてないでしょ」

 (適材適所なんだろ? 俺は戦闘、頭使う事はジャンに任せるよ)


 話をしていると、教師が教室に入ってきた。

 「ジャン! あなたは授業を受けなくていいので、とある部屋に行って下さい」

 「わかり……ました」


 (何か悪い事とかしたか?)

 「いや、してないと思うけど」

 教師に言われた部屋へと向かう。


 ドアを開けると、中には甲冑を着た数人の兵士と王子様の姿がそこにはあった。

 「やあジャンしばらくだね。君に伝えないといけない事があって呼び出したんだ」

 「どういった話でしょうか?」


 (王子様に呼び出されるような事したか?)

 (静かにしててよユウタ……)


 「……動揺しないで聞いてほしい。先日ジャンのお父様が戦死された」

 「えっ!?」

 「私も今日聞いたばかりだ。ロア王国に侵攻してきているダル公国との戦で戦死されたそうだ」

 「父上が戦死したのは事実……なんですか?」

 「事実だ。遺体は君の屋敷に今護送中だと聞いている……ここからが本題だジャン。ジャンはアウル家の当主となり、今すぐに領地に戻り、ダル公国の侵攻を止めろとの国王からの命だ」


 「おっと替わった。つまりはなんだ? 戦争をしろって事だよな?」

 「……ああそうだ」

 

 「何を沈んだ顔してるんだよ王子様」

 「父親が戦死したばかりだというのに、喪に服す時間さえなく、私と同じたった12歳なのに死地へと送り込むことしか出来ない私を許してほしい」


 「なんだよ? もしかして王子様は負けると思っているのか?」

 「……かなり厳しい状況だと聞いている。兵士の数もそうだが、見たこともない魔法を使ってくるとか」


 「ふ〜ん、それで王子様。俺はこれからどうすればいいんですか?」

 「急遽の事だから、馬車と護衛はこちらで用意した。それに乗ってすぐに領地へ戻り、戦の準備を始めてもらいたい」


 「じゃあ、さっさと俺は行きますよ」

 「ジャン死ぬなよ? 何でも良い。生きて戻ってこい。その後は私がどうにかしてやる」

 俺はその言葉を聞いて、テーブルにドンッと勢いよく足を乗せた。


 「だから何で負けると思ってるんだよ。戦う前から負ける事を考える奴がいるかよバカ野郎」

 「貴様、ルイス殿下に向かって無礼な――」

 ルイス殿下が手を上げて、兵士を諌める。


 「いい。彼とは同級生で同い年なんだ。では頼んだぞジャン」

 「任しときな」

 俺に根拠はないが、自信満々にそう答え部屋を後にしようとする。


 「ジャン! 死ぬなよ」

 背中越しに王子様にそう言われ、俺は親指を立ててグッドサインで返した。


 すぐに支度をし、学校の入り口に用意された馬車に向かっている時だった。

 「ジャン!!」


 声に振り向くとそこにはレベッタ先生が。

 「先生どうしたんですか?」


 「少しお前の事情を小耳に挟んだんだ。卒業するときにやろうと思ったが、いまやるよ」

 手渡されたのは、綺麗な模様の入った二本のダガーだった。


 「これは?」

 「私がまだ傭兵時代に使っていた物で、一番死線を越えてきたダガーだよ。お前にやるよ」

 「そんな大切な物、いいんですか?」


 「ああ、結構な業物だから使えるぞ。ジャンお前……死ぬなよ」

 「レベッタ先生……クソババアの顔にまだ一発も入れてないんだ。死ねるかよ」


 「ハハハ。それだけ言えれば十分だ! また会おうぜ」

 レベッタ先生はそう言って去っていく。俺は馬車に乗り込んで出発した。


 馬車に揺られながら数日、ジャンに話しかけているが全く反応がない。

 目的地であるジャンの故郷に到着したようだった。

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