第91話 改めてもう一度
座っているテライル・ジャッカーを机の前に放り投げ、俺は奴が座っていた椅子に腰かける。
そしてひっくり返って呻き声を上げる奴に笑顔で尋ねた。
「さて、お尋ねします。貴方が、コーガス前侯爵夫妻を殺したんですね?」
「ぐ、うぅ……何を言っている……貴様……こんな真似をしてただで済むと思っているのか」
寝転がっていたテライルが、よろよろと起き上がって来て俺を睨みつける。
「ええ、全く問題ありませんよ。証拠は一切残しませんし。この部屋には結界を張ってありますので」
深夜なので、誰かが訪ねて来る心配もないだろう。
まあ来たら来たで、制圧してしまえばいいだけだ。
「――っ!?」
証拠は一切残さない。
その言葉の意味を理解してか、テライルの表情が強張った。
一瞬で気づくとか、流石は大商会のトップを務めていただけはある。
というのは褒め過ぎか。
顔丸出しの相手に証拠は残さないなんて言われたら、ある程度真面な思考をしてる奴なら、普通は直ぐに気づける範囲だろうし。
「誰か!賊だ!」
テライルが慌ててテーブルのサイドにかけてある鐘の様な物を手に取り、扉に駆け寄りながらそれを鳴らす。
恐らく外部に異変を知らせるマジックアイテムなのだろうが、俺の結界は魔法を遮断するので当然そんな物は役に立たない。
当然の事だが、音や振動の類も完全にシャットアウトするので叫んだり暴れたりするのも無意味だ。
「何をしても無駄ですよ。この世界で私の結界を破れる物なんて殆どいませんから」
エーツーやシンラ辺りなら可能だろうが、二人とも俺の味方だ。
テライルを助けるために動くなどありえない。
「誰か!!誰か!!」
テライルは必死にドアノブをガチャガチャするが、当然それが動いて開く事はない。
ドアを諦めた奴は窓に向かって走り、それをバンバンと叩く。
が、結界によって振動や衝撃が完全に吸収されてしまい、ガラス製の窓にはヒビ一つはいらない。
ついでに言うなら、そこから見える景色は完全な闇となっている。
外側から見た場合は普通の部屋が映っているので、たまたま巡回の警備が気づく事もない。
「ぐ……く……」
割れない窓に、そこから見える闇とかした景色。
流石に脱出は不可能と判断したのだろう。
テライルは憎々し気な目を此方へと向け、口を開いた。
「貴様ら、一体何が目的だ……」
「確認と執行ですよ。では、改めてもう一度お尋ねしましょう。テライル様、貴方は前代コーガス侯爵家夫妻を殺しましたね?」
まあ何の執行かは言うまでもないだろう。
「何を馬鹿げた事を……私がそんな真似をする訳が無かろう。まさかそんな言いがかりを言う為に、こんな大それた真似をしたのではなかろうな」
『嘘だ』
『だろうな』
エーツーからウソ判定が伝音で伝えられる。
これで本当に違ってたら偉い事だった訳だが、まあそんな訳ないわな。
「言いがかりではありませんよ。正確には、言いがかりではなくなったと言った方が正しいですが。当方には貴方の嘘を見抜く方法がありますので、今のお答えで明確になりましたので」
まあ確信はしていたが、証拠自体はなかったからな。
なので、言いがかりと言えば言いがかりではあった。
とは言え、相手から明確な答えが貰えた以上もはやなんの憂いもない。
「お陰で何の気兼ねも無く、ジャッカー家を皆殺しに出来るという物」
「なっ……」
一族を皆殺しにすると言う俺の言葉に、テライル・ジャッカーが大きく目を見開く。
……やれやれ、まさか一族全員殺されるなんて考えもしていなかったって顔だな。
貴人に手を出せば、一族郎党皆殺しになるなんてよくある話だ。
従家の人間が主家の当主に手をだしておいて、それを想定しないのは滑稽極まりない。
まあ余程舐められていたって事だろうな。
ほぼ没落してた訳だし。
だがコーガス侯爵家は持ち直し。
そして犯人を見つけ出した。
ならば正義の執行として、その一族郎党を皆殺しにするのは妥当な行動である。
相手がどう考えていたかなど関係ない。
コーダン伯爵家の時は、一族を皆殺しにはしなかった。
伯爵が一応協力的というのもあったが、流石に直接暗殺にかかわっていない一族を殺すのはアレだと思ったからだ。
利益を得た訳でもないしな。
だが――
利益の為に、コーガス侯爵家の貴人を殺した人間の一族となれば話は変わって来る。
ジャッカー一族の繁栄がその死の上に成り立っている以上、笑顔で見逃すなどありえない事だ。
まあ、流石に問答無用で皆殺しは多少理不尽に感じるので、どうするかはテライルの姿勢次第ではあるが。
協力的だったり、有用な情報を持っている様なら、それを考慮してはやるつもりだ。
但し、何があろうともジャッカー商会自体は完全に潰すが。
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