第87話 突撃
「れ、レイン王子!?」
玉座前に立つレイミー。
その横にいる聖女の姿を目にした途端、周りが止める間もなくレイン王子はタケコへと駆けだしてしまう。
「聖女様!」
そして居並ぶ兵士達の間を抜け、そのまま彼女に勢いよく抱き着いた。
王族が何やってんだって気がしなくもないが、祖父が殺されその罪を被され、更に捕まってきつい拷問までされたのだ。
その心の傷は深く、彼の心の拠り所である聖女タケコを目にした事で、自分の中にある感情が噴き出してしまったのだろう。
まあ多少は大目に見てやらんとな。
「お久しぶりですね。レイン王子」
「お父様が殺されて……僕……僕……」
優しく抱きしめるタケコに縋りつき、人目もはばからずすすり泣くレイン王子。
その聖女に対する依存の高さを見て思う。
これならこいつのコントロールはチョロそうだな、と。
ミドルズ公国の御家騒動に本格的に首を突っ込むには、レイン王子側からの要請が必要不可欠である。
勝手に参戦しますってのは、流石に無理があるからな。
だからトップである王子を、聖女を使って上手くコントロールして話をスムーズに進める予定だ。
「も、申し訳ありません。王子が大変なご失礼を……」
「いえ。事情は伺っておりますので、お気になさらずに」
全員事情は把握しているので、レインの醜態を咎める様な事はしない。
まあレイバンは少しむっとしている様だったが――少し顔に出てる。
彼は周囲の貴族に侮られた事も引きこもりの一因になっているので、自分の事を無視して行動するレインに思う所があっても仕方ない事ではある。
「……」
王子が落ち着くのを待つべきかどうか迷ったレイミーが此方へと視線を向けたので、伝音で『気にせず進めてください。レイン王子への挨拶は落ち着いてからで構いませんので』と答えておいた。
この様子だと、いつ落ち着くか分かった物じゃないからな。
「皆さん。ようこそコーガス侯爵領へ。、私はコーガス侯爵家当主代理のレイミーと申します。そしてこっちが――」
「弟のレイバンだ」
レイミーに視線を向けられたレイバンが、少々不愛想だがきちんと自分で名乗る。
限定とはいえ部屋の外に出る様になっただけではなく、初対面の人間に挨拶できる様になったのは、間違いなく大きな前進と言えるだろう。
……聖女効果は
「レイミー様。レイバン様。ローラ・エルントと申します。此度のご厚意にはこのローラ、感謝の言葉もありません。どうぞよろしくお願いいたします」
「ご安心ください。聖女様たっての希望でもありますので、コーガス侯爵家がレイン王子をお守りする事をお約束いたします」
一通りお互い挨拶なんかを済ませたが、レインはそのままだ。
落ち着くまでまだ暫くかかりそうなので、仕方ないのでこの場で俺は今後のスケジュールや彼らの環境を説明を始める。
まあレイン王子にはローラあたりが説明してくれるだろう。
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