第57話 裏どり
「なんだと!?貴様らまさか私がそんな真似をしたと言いたいのか!?」
バー・グランから、コーガス侯爵家の先代夫妻が暗殺されていたかもしれない事。
そしてその事に、コーダン伯爵が関わってるかもしれないという情報を得たと伝えると、レガンが眉を吊り上げ怒鳴る。
「いえ、まさか。伯爵もご存じの様に、コーガス侯爵家は没落して等しい家門でした。今でこそ復興が始まっておりますが、三年前に当家の人間を狙う理由など誰にも御座いません。ですので、我々は別に伯爵様を疑ってこの場にやって来た訳ではないのです」
常識的に考えて、貴族である伯爵が平民に等しかった当時のコーガス侯爵家の人間を暗殺する理由などない。
俺は相手の警戒を解くため、その部分を強調する。
重要な質問をする前に、怒って会見を打ち切られない様にするためだ。
いくら
まあぶっちゃけ、今の反応を見ただけでほぼ黒は確定してる訳だが。
何ら後ろ暗い事が無いのなら、疑われた事を不快に感じはしても、此処まで瞬間的に激高したりはしないだろうからな。
とは言え、単に短気なだけという可能性もある。
事が事だけに、慎重に進めないと。
「む……そうか。そうだな。私を疑う理由などある筈もないな。しかし……ならば何故ここへやって来たというのだ?」
俺の言葉にレガンが落ち着きを取り戻し、吊り上げていた眉を下ろした。
「一介の使用人如きの言葉を鵜呑みにするつもりは御座いませんが、聞かされた以上無視するという訳にもまいりません。ですでの、一応の確認のためお伺いに参った次第です。あくまでも形式的な確認になりますので、どうかお気を悪くなさらずに」
御機嫌取りがてら、深く頭も下げておく。
まあ頭を下げるだけならタダだからな。
その辺り、俺はまったく気にしない。
「やれやれ。そんなつまらん理由でわざわざ訪ねて来て、私の貴重な時間を奪うとはな」
「お付き合いさせてしまい、伯爵様には申し訳ないばかりです」
「まあいい。私もそこまで器が小さい訳ではないからな。さっさと済ませろ」
「ありがとうございます。では――『レガン伯爵様は、コーガス侯爵夫妻の殺害には一切関与されていない』――そう考えて間違いないでしょうか?」
「当然だ。そもそも、送った使用人にスパイ活動させていたなどという事実もない。私が没落した家門に干渉する意味などないのだからな」
『全部嘘だ』
魔王がハッキリとそう告げる。
簡単に明確な答えの出る事に素晴らしい事よ。
「ありがとうございます。伯爵様から明瞭な返事を頂けたので、コーガス侯爵家当主代行であらせられるレイミー様もきっとご安心される事でしょう」
伯爵にはコーガス侯爵家に干渉する理由があり。
そして暗殺に関わっていた。
その裏が取れた以上、この会見を続ける意味はない。
お楽しみは後日だ。
「ふん、それだけでいいのか」
「はい。先程も申し上げました様に、疑う余地など初めから御座いませんでしたから。お付き合い頂き感謝いたします」
「まるで子供のおまま事だな。侯爵家に戻ったら、次からつまらぬ些事で時間を取らせてくれるなと当主代理に伝えておけよ」
「畏まりました」
安心しろ。
もう二度と、お前の時間をつまらない用件で潰したりはしない。
次からは、超が付く重要な案件だからな。
「では、失礼いたします」
俺達は伯爵家を後にし、コーガス侯爵家へと戻った。
裏は取ったが、今すぐに動く訳にはいかない。
使者と接見して直ぐに問題が起これば、コーガス侯爵家にあらぬ疑いの目が向きかねないからな。
しばらくは遊ばせといてやる。
人生最後の時間をたっぷりと楽しむと良い。
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