第20話 謎の聖女

――エンデル王国。


「行方は掴めたのですか?」


国と同じ名を持つ王国の首都。

その中心部にある王宮の敷地内にある離宮の一つ、秘華宮。

そこは先代国王の妃――現国王の母にあたる人物が住まう場所となっている。


その秘華宮の一室に、ドレスを身に纏った老齢の女性――前王妃ヴィーガ・エンデルと、その前で膝を突くスーツ姿の男の姿があった。


「申し訳ありません。それが一向に手がかりがつかめず……」


ヴィーガの問いに、男は俯き苦々しく答える。


「恐らく、転移魔法の使い手ではないかと……」


「転移魔法……つまり、聖女と呼ばれる女はそうとう高位な魔法使いという事ね」


――聖女。


少し前から、各地で貧しい暮らしをしている怪我人や病人を癒し。

更には、不治の病と言われる重病をも治して周っている女性がいた。


人々はそんな女性を聖女と称え、その献身は極短期間で既に広く知れ渡る事となる。


「恐らくは……」


「やっかいね。もうじきあの方の復活が成るというのに……」


前王妃であるヴィーガは、ある邪悪な存在の復活を企んでいた。

その目的を聖女に邪魔されるかもしれない。

そう考え、配下の者達にその所在を調べされているのだ。


「ヴィーガ様。聖女は本当に我らの妨げになるのでしょうか?」


「私の予知能力は微々たる物ですが、間違いありません。聖女は確実に我らの障害となる存在です。一刻も早く見つけださなければ、我らの計画に支障をきたす事になりかねません」


前王妃ヴィーガ・エンデルには若干の予知能力がある。

そしてそんな特異な力を持つ彼女は、実は人間ではなく魔族であった。


正確には、かつて魔王が生み出した限りなく人間に近い遺伝子を持つ魔族の亜種だが。


純粋な魔族ではないが故に、人との間に子をなせる亜種。

彼らは自らを魔人と呼称している。


そして魔人達は人間社会に溶け込み、100年という長い歳月をかけて、確実に世界各地にその魔手を根付かせていったのだ。


「現状で彼女を探し出すのは困難。ならば、アビーレ神聖教会を利用しましょう」


アビーレ神聖教。

このエデンでもっとも力を持つ宗教であり、多くの国々が国教と定めている宗教だ。


「教会を……ですか?」


「かの教会も、自分達以外から聖女と呼ばれる者が出る事をよく思っていないはず。彼らに声を掛ければ、必ず聖女の探索に乗って来るでしょう」


「確かに、しかし宜しいのですか?」


「気分はよくありませんね。ですが、教会に魔人を見抜ける者が居ないのは既に証明済み。ならば人手の必要なこの現状、彼らを利用しない手はありません。全ては我らが悲願……お母まおう様の復活の為です」


魔族と、神を信奉する教会は相いれない存在と言っていい。

実際、純粋な魔族だったなら、即座にその存在を見抜かれていた事だろう。


だが魔人は違う。

彼らは人に限りなく近い形で生み出されている。

更に、彼らにとって神にも等しい存在だった魔王を倒した勇者への恐怖から、魔人達は人に紛れ込む術をこの100年間徹底的に磨いて来た。


そんな二つの要素がかみ合い。

今や教会の扱う高位の神聖魔法をもってしても、魔人達の正体を暴くのは難しい物となっている。


それが分かっていても魔人達は、これまで教会への接触を避けて来ていた。

それは相容れぬ存在に対する、本能的な忌避感からだ。

だが悲願を達成する為、ヴィーガはそれを飲み込む事を決意する。


「承知しました。では、早速アビーレ教会に接触を図りたいと思います」


「頼みましたよ。そして必ず見つけ出すのです。聖女と呼ばれる者。『タケコ・セージョー』を」


全てが謎に包まれた聖女、タケコ・セージョー。

彼女は一体何者なのか。


それを知る者は……

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