第16話 東桂橋での時間
林道を道なりに進むと森が開けた場所
絵にかいたようなトラス橋が目に入る
斜材の三角がきれいな橋
看板を見る
竣工昭和四五年
四八年間
ずーっとここにある
アンティークな雰囲気を放つ
昔の賑やかさはない
人に持てはやされた時間を超え
ひっそりとたたずむ
祭りの後の静けさのよう
必要とされなくなった寂しさ
遠くに見える自動車の音も
ここには届かない
林道の先にあるのは
使用していない小さな水力発電所
放置された渦巻ポンプは
アンモナイトの化石のようだ
橋を渡ってみる
見上げると白く塗られた鉄骨が青空に映える
湖に繋がる川だ
上流から流された石
化石を含んだ
大昔は海だったところ
橋の周りは広めの待避所になっていた
砕石を敷き詰めてある
草が生えていない
森から見ると私の姿は丸見えになる
一番最初に狙撃される兵隊みたいなもの
視界が悪くなる夕暮れはさらに緊張する
ヘッドライトで回りを照らす
自分の周りをぐるり360度を見渡す
熊が出ないかと最新の注意を払う
熊が出たらすぐに自動車に逃げ込もう
自動車から離れずに警戒する
大きな音量でラジオを掛けてみた
草の音が聞こえず
逆に危険な気がしてやめた
熊が林道を歩いてくるはずもない
人の作った道なんか認識しない。
彼らの通る所が彼らの道となる
人間の常識を捨てて警戒する
相手は自然なのだ
常識を捨てろ
思い込みを捨てろ
ここはキツネの散歩コースだ
多い時は子ギツネが三匹
やってくる
僕の様子を伺って暫く留まって
橋を渡っていく
猫は人間を大きな猫だと思っているらしいが
キツネもそう思っているのだろうか
時々
車の周りで鬼ごっこをしてみた
冬のトラス橋
遠くから全貌を眺める
雪が積もる橋
雪が鉄骨に巻きいている
焼いて膨らんだマシュマロの様に
鉄骨に雪が巻きつく
橋を渡ってみる
青い空がまぶしい
桂沢湖にそそぐ川を眺める
凍った川に雪が積もっていて
キツネや鹿の足跡を見つける
彼らの道を目で追った
彼らもこの橋を渡るようだ
橋に目を移すと
雪で出来た橋の様だ
丸くなった雪庇のように
鉄骨に巻きつく雪
いつが落ちてくるんだろう
足早に橋を渡る
ノスタルジーを感じさせる橋を
改めて眺める
小さいが綺麗な橋だ
いつまでもここに在ってほしいが
付け替え工事があるらしい
この姿も観納めになる
この姿を見せるために
僕が呼ばれたのだろうか
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