第9話 キツネとの時間
七月
桂沢林道ゲート前の退避場から
十メートル程下の夕張国道の歩道
キツネの親子を見つけた
日陰を歩いている
僕がここに居るのを知っている
そんな気がした
夏の夜
桂沢大橋を夕張方面に渡ったところで片側通行誘導の仕事
十九時から翌日七時までここに立ってる
衛星電話を渡された
熊がでるから
「草わらがガサガサと音を立てたら逃げて」と言われた
日が暮れる
バールーン型の投光器
周りに響き渡る発電機の音
草わらの音なんか聞こえない
僕の危険察知能力が起動するのか
遠い昔に人間が持っていたはずの力
灯光器の光に誘われ虫が集まってくる
大きな蛾とか飛び交う
何とも言えない虫の匂いに包まれる。
ひっくり返って足を動かしているクワガタ
元に戻してやる
歩いて行って飛んでひっくり返る
それを繰り返す
子キツネが現れた
湖の方から現れ路肩をウロウロ
僕を恐れていない
逃げ切れる距離を知っている
蛾を食べている
クワガタは食べない
クワガタを食べるのはカラス
おなかだけ食べる
おなかが無くなっても動き回る
ある日突然
キツネが現れた
道路の端を歩いていく
それからいつも決まった時間にやってくる
狩りのコースがある
キツネは耳がいいらしい
ピョコピョコを林道を歩いて
急に立ち止まる
耳をピクピク草藪をじっと見つめる
身体は何一つ動かすことは無い
二三回、姿勢を低くして構え
ピョンと草藪に鼻から突っ込む
シロクマが前足で氷を割る恰好と同じだ
コースを一周して戻ってくると
砕石の下をほじくっている
顔を上げるとネズミをくわえていた
隠していたのだ
キツネは僕らのように鞄やポケットを持っていない
獲物を隠し帰りにまとめてくわえていく
足取りがうれしそうに跳ねている気がする
大きな鯉や数匹のネズミをくわえている時
「お前は何か捕まえたか」と
横目で僕の前を横切って行く
日陰探し
八月の暑い時
キツネがいつの間のか車の下に入り込む
少しでも涼しいところにいたいのだろう
近づいても逃げることはない
僕が何もしないと見切ったのだろう
時には
遠くからひょこひょこ向かったきたり
いつの間にか後ろに来ていてびっくりさせられる
目の前で
転がったり毛づくろいをし
兄弟でじゃれたりする
車の周りで追いかけごっこをする
なかなか頭がいい
ちょっと深追いをして
追い詰めた時は戦闘モードに入るのがわかる
目力がある
私も目を離さず睨み返す
目を逸らしたら負けだ
これが野生と納得する瞬間
雨でグシャグシャに濡れていても
平気で座る
フワフワな毛が守ってくれるのだろう
冬が近づくと
大きなフワフワな尻尾が羨ましい
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます