第18話 過去との対峙
支援活動に打ち込む日々が続く中、幸也は過去のトラウマと向き合う決意を新たにしていた。義理の父親である田中との対決を避けては、自分の人生を前に進めることができないと感じていたからだ。
ある日、幸也は美香にそのことを打ち明けた。
「美香、僕は義理の父親だった人と話をしなければならないと思っているんだ」と幸也は真剣な表情で過去のトラウマを美香に語った。
美香は驚きつつも理解を示した。「幸也君、過去と向き合うのは勇気がいることだけど、それが君の未来のためになるなら、私は応援するよ。」
幸也は美香の言葉に感謝し、彼女の優しさに励まされた。「ありがとう、美香。君の気持ちを大切にするよ。」
数日後、幸也は田中と再会する決意を固め、彼の家を訪れた。ドアをノックすると、田中が現れた。昔の厳しい顔立ちは変わっていなかったが、少し驚いた表情を見せた。
「ゆっ…幸也じゃないか!?……いったい!?どうしたんだ?こんなところまで来て…。」田中は戸惑いながら尋ねた。
「話がしたいんだ、田中さん。過去のことについて」幸也は毅然とした態度で答えた。
二人はリビングに座り、しばらくの沈黙の後、幸也が口を開いた。「なぜ、僕にあんなことをしたのか、教えてほしい。」
田中は深いため息をつき、目を閉じてから話し始めた。「幸也、お前にあんなことをしたのは、俺自身の弱さからだった。仕事で失敗し、人生に絶望していた俺は、家族に対しても攻撃的になってしまった。お前を傷つけたのは、俺の無力感の表れだったんだ。」
幸也は田中の言葉を聞きながら、自分の中に沸き上がる複雑な感情を抑えた。「でも、それで俺が受けた苦しみは消えない。俺はそのせいで、ずっと心に傷を負ってきた。母さんが亡くなった後、あんなにすぐに俺を施設に預けたのはどうして?」
田中は顔を歪め、涙を浮かべた。「それは、俺の最大の過ちだった。お前を育てるのがあまりにも辛くて、逃げるしかなかった。自分の無力さと恐怖に押しつぶされそうで、俺はお前を手放すことで自分を守ろうとしたんだ。」
幸也は驚きと共に怒りを感じた。「それが理由だったのか。俺はずっと、自分に問題があったんだと思ってた。でも、母さんの死後、俺を捨てたのは自分自身の弱さだったんだな。」
田中は深くうなずき、涙を流した。「その通りだ。お前に与えた苦しみを消すことはできない。でも、これからは償いたいと思っている。お前の支援活動のことも聞いている。少しでも手伝わせてくれないか?」
幸也はしばらく考えた後、ゆっくりと頷いた。「分かった。でも、これからは過去のことを忘れずに、お互いに前を向いて進もう。」
田中は幸也を施設に預けた後、罪悪感と孤独感に苛まれながらも、一からやり直すために仕事を探し始めた。最初はうまくいかず、何度も転職を繰り返したが、次第に落ち着きを取り戻し、建設業の現場で安定した仕事を見つけることができた。
仕事に打ち込みながら、田中は少しずつ人間関係を修復しようと努力し始めた。自分の行いを反省し、支援活動にも関心を持つようになり、地域のボランティア活動に参加するようになった。その中で、彼は過去の過ちを償うために、自分ができる限りのことをしようと決意していた。
その日の夜、幸也は美香にそのことを伝えた。「あの人と話して、少しは理解できた気がする。これからは、過去を乗り越えて前に進むために、支援活動にもっと力を入れていきたい。」
美香は優しく微笑み、幸也の手を握った。「幸也君、君は本当に強い人だね。これからも一緒に頑張ろう。」
幸也は美香の言葉に勇気をもらい、未来に向かって歩み出す決意を新たにした。
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