勇者祭 16 研師
牧野三河
第一章 拾い物の吟味
第1話 宝飾品
がらがらがら・・・馬車が魔術師協会前に停まる。
音が聞こえたのだろう、がらっと玄関が開いて、ぱたぱたとマツが出て来た。
「おかえりなさいませ」
「只今戻りました。ふふふ。楽しかったですよ」
「ただいま!」「只今戻りました!」
シズク、クレールがマサヒデの後ろに並ぶ。
カオルも向かいのギルドの繋ぎ場に白百合を繋ぎ、さっと並んで、
「奥方様、只今戻りました」
と頭を下げた。
「あら? ラディさんは?」
「ははは! 馬車の中で、まだ鑑定中ですよ」
マサヒデは馬車の後ろに行き、じっと剣を見つめるラディに、
「ラディさん」
「・・・」
「ラディさん。着きましたよ」
「は!」
剣を鞘に納め、くる、とラディがマサヒデの方を向いた。
やっと、馬車が止まっているのに気付いたのか、
「あ、着きましたか・・・」
「はい。さあ、降りて。まずは中で一服して下さい」
「はい」
す、と剣を置いて、ラディが降りてくる。
マツが頭を下げて、
「ラディさん、おかえりなさい」
「あ、師匠・・・只今戻りました」
ラディも頭を下げる。
「さ、皆さん、中に入って一服して下さい。
シズクさん、私達は得物を庭まで運びましょう」
「はーい!」
皆がぞろぞろと中に入って行き、マサヒデは幌を上げて、乗り込む。
「お。まとめてありますね」
いくつか紐でまとめられた束に『ゴミ』と書かれた紙が挟まっている。
長物はまだ見れてないのか、横に乱雑に置かれたままだ。
「ゴミとは・・・まあ、そうですけど・・・」
「あはは! ラディは容赦ないね!」
「とりあえず、庭に全部置きましょう。
ギルドに持って行くのは、鑑定が終わった後にしましょうか。
よいしょっ・・・と」
と、マサヒデがシズクに束を渡す。
「はいよっ!」
「いよっ・・・と!」
「はい!」
「もうひとっ・・・つ!」
「ほい! 置いてくるね!」
ずちゃ、と重い金属音が、馬車まで響く。
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マサヒデとシズクは杖の束を持って、居間に上がった。
「ふう! 疲れましたね・・・」
「私はまだまだいけるよ!」
よ、と杖の束を下ろして座る。
カオルがさっと茶を差し出してくれた。
マツは庭に積まれた武器の山と、マサヒデ達が持ってきた杖の束を見て、
「すごいですね・・・」
と、驚いたような、呆れたような、何とも言えない顔をする。
「ふふふ。大漁でしたよ」
「で、この杖は?」
「ええと、こっち・・・の束は、クレールさんに合いそうな杖で、後で厳選します。
他は、クレールさんには合わなかった杖ですけど、マツさんは使います?」
マツは首を傾げ、
「ううん・・・別に・・・いりませんね」
「ははは! ですよね! マツさんはそう言うと思いましたよ!」
「うふふ。マサヒデ様、杖は宝石が着いてますから、高く売れますよ」
「じゃあ、買うにも高いって事ですね。
高い物なら、揃えるにも経費がかかるでしょう。
これだけあるんですから、いくつかはギルドに寄付しましょう」
「良いお考えです」
と、マツが頷いた。
マサヒデは杖の先の宝石を見て、
「ああ・・・うむ、宝石か・・・外して、皆の指輪でも作りますか?」
「あら! それは良いお考えだと思います。
でも、私もクレール様も、宝飾品は間に合ってますよ。
ラディさんは如何されます?」
ラディは湯呑を持ったまま、じーっと庭の武器の山を見ている。
「ラディさん?」
「は! 何でしょう?」
「杖の先の宝石を外して、宝飾品でも作ろうかって。
ラディさんはどうされます?」
「宝飾品ですか?」
ラディはぴんとこない感じだ。
そういう物には全く興味がない、といった感じだ。
「ラディさん、指輪でも作ってはどうです。
杖の代わりに、水の魔術を使う時に」
「指輪ですか? ううん・・・鍛冶仕事の邪魔になりそうで・・・」
クレールがラディの変な顔を見て、
「別に、普段からずっと着けている必要はありません。
ラディさん、宝飾品はいくつか作っておくべきですよ。
旅先でパーティーに呼ばれた時、恥ずかしくないようにしませんと」
ラディが驚いて、
「え? パーティー? 呼ばれるんですか?」
クレールが膝を進めて、
「マサヒデ様は、もう国中の有名人です。私もレイシクランです。
旅先、どこでパーティーの誘いを受けるか分かりません。
マサヒデ様は、もう国王陛下にも知られているんですよ」
「私はドレスなど着ませんし、特に必要ないかと」
「指輪とイヤリングは作っておきましょう。
常にはめておく必要はないのですから」
「そうですか?」
「そうですよ! ねえ、マツ様?」
マツも頷いて、
「想像しているような、派手な物でなくとも良いのです。
ラディさんの、あのきりっとした紋付袴の姿に、控えめに添えられる物が・・・
きっと、すごく素敵な姿になりますよ」
ラディは首を傾げ、
「そうでしょうか?」
「そうですとも。きっと、美しくなります」
ぴく、とラディが反応した。
「美しく・・・」
マツが柔らかく微笑み、
「ええ。ラディさんは自覚していないだけで、とても美しいのですよ。
でも、それが上手く外に出せていないのです。
小さな宝石ひとつで、ぐんと引き立たせる事が出来ますよ」
「・・・」
ぼ、と顔を赤くして、ラディが俯く。
ふふ、とマサヒデが笑い、
「では、ラディさんの分は作りましょう。
石はラディさんに選んでもらいましょうか。
形を、マツさんとクレールさんで考えてもらう、なんてどうです?」
「あら。良いのですか?」
「良いですよね、ラディさん?」
「では、その、お願い、します」
クレールが「さささ」と杖の束の前に膝を進め、
「わあー! 素敵ですね! さあさあ、ラディさん! どれにしますか!?」
「え!? ええと、さあ・・・」
「イヤリングでふたつとー、指輪はいくつ作りますか?」
マツも膝を進め、
「クレールさん、石はひとつでなくとも良いではありませんか。
3連、4連とか・・・」
「あ、そうでした! でもでも、大きさを合せてカットし直しませんと。
石が小さくなりますよ?」
「私は小さい方が良いと思います。
石が大きいと、紋付きでは、きっと浮いてしまいます」
「む、ううむ、そうですね・・・」
「イヤリングも控えめで良いと思うのですが、敢えて奇を衒うのもありですよ」
「む、マツ様、奇を衒うと言いますと」
「大きさ、デザインは控えめでも、左右の石の色を変えてみるとか」
「むむむ・・・マツ様、それもありですね・・・」
さ、とマツが立ち上がり、執務室から紙の束と筆を持ってくる。
「例えば、こう、石を縦に2個並べてですね」
「ふむふむ」
「で、ですよ。反対側、石の並びを変える訳ですね。
こんなのどうです?」
「じゃあですよ、3連にしまして、真ん中同じ、上下が逆とか・・・」
マサヒデは盛り上がるマツとクレールを見て、苦笑して立ち上がり、
「ラディさん」
と、ぽん、とラディの肩に手を置いた。
「冒険者ギルドに行きましょうか。
銃を、マツモトさんに見てもらいましょう。
マツモトさんなら、良し悪しが分かるのでは?」
「あ、あ、そうですね」
「ふふ、行きましょうか」
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