第4話:看板猫からの看板娘の巻。

「プティ、いい?」

「今日から看板猫頼むね」

「ただし、お客さんがいる前で魔女に変身しちゃダメだからね」

「普通はそんなのありえない話だから・・・」


「分かってるって・・・任せて」


ってことでプティは観音かのんさんに気に入ってもらおうと看板猫になって

お客に愛想を振りまいた。

たいがいの客は可愛いプティを撫でたり触ったり可愛がってくれたけど、

中には、そこに猫がいるのかって素知らぬお客もいた。

お客は千差万別、猫嫌いな客だっているだろ。


カオスにはいろんなお客さんが来る。

いい人は別にして性根の悪い人、そう言う人たちは魔女であるプティには

すぐ分かる。

プティが生理的に嫌いなお客は愛想さえ振りまかない。

ブスッとして寝た真似をして誤魔化す。


プティは観音さんがお客の頭を綺麗にカットしていく様子を初めて見た。


髪をカットして髭を剃って洗髪してセットしてそれで一式。

それを観音さん一人でこなしてるから大忙しだし一日にカットできるお客さんの

人数も限られてくる。


カノンちゃん大変だね。


観音さんのために自分も何かできることないかなってプティは考えた。


(髪をカットするのはセンスとテクニックがいるから無理ね)

(髭剃りと洗髪くらいならできるかも・・・)


(そうだ!!私がアシスタントになってお手伝いしてあげたらいいんだ)


いきなりそう思ったプティは看板猫でいなきゃいけないのに椅子から飛び

降りるとお客の前では魔女のプティに戻ってしまった。


待合のソファーに座っていた客は、その光景を真近にし見て目を丸くした。


え?なにがおきたの?って感じ。


やっちゃった・・・プティはそう思ったけど、後の祭り。

きっちりお客に見られたから今更猫に戻っても遅い。


「あちゃ〜、プティ・・・なにやってるの?」


「ごめんね、カノンちゃんやっちゃった、つい考えごとしてて」


「だから言っといたのに」


客は見ちゃいけないものを見てしまったみたいに固まっていたけど誰もなにも

言わなかった。


この場のシラけた状況をなんとかしようと思って観音さんは適当なことを

言った。


「あ〜こう言う猫は、何万匹に一匹くらいいるらしいですよ」

「本当に珍しいんです」

「実は僕も今日始めて見て驚いてるんですよ、あはは」


そんなバカみたいな話は誰も聞いてないわけで、ただみんな変身した

プティを珍しそうに見ていた。


「し〜らないっ」


プティは知らん顔で元の看板猫に戻って椅子にちょこんと座った。


お客は誰も帰らなかったし、なにも見なかったように普通に自分の順番が

来るのを待っていた。

一瞬空気が変わっただけで、今起きたことなどなかったように・・・。


それでその場は収まった。


ところが次の日、理髪店・カオスの前に大勢のお客が並んでいた。

もちろん好奇心まるだしでプティを見にやって来た人たち。


昨日来たお客が、あちこちでプティのことを言いふらしたみたいだった。

昨夜の間に噂は広まり、みんな一目変身する猫を見てやろうと野次馬が

やってきた。


見に来たって、そうですかってプティが猫から魔女に変身する姿を

いちいちアピールする訳ないのに・・・プティは天の邪鬼だから。


観音さんは店をオープンしようとドアのカーテンを開けてびっくりした。


「な、なにこれ・・・なにがおきてんの?」


ドアの向こうに大勢の人が行列をなしていたからだ。

そうか・・・みんなプティを見に来たんだ。


お客は一目でも魔女になる猫を見ないと帰ってくれそうになかった。


「プティ・・・どうしよう?」


「今日はお店お休みにすれば?」

「オープンしないことをお勧めします、私は」


「ドアを開けたらお客がなだれ込んできそうだね」

「しかたない、今日は臨時休業だな」


「人の噂も75日って言うでしょ、そのうち飽きちゃったら来なくなるよ」


「75日も休んでいられないよ」


でもまあ、三日後くらいには野次馬も来なくなった。

だから結局、カオスは三日間休業した。


落ち着いた頃、プティは観音さんとずっと一緒にいたかったから彼のアシスタントに

なるべく理容美容専門学校へ入学した。

無理に学校へ行かなくてもアシスタントはできるんだけど観音さんが社会勉強

のために行った方がいいよって言ったから通うことにした。


たちまち学校へ通う足がなかったプティは魔法で、電動キックボードを

出して背中にリュックを背負って飄々と通って行った。

ちゃかりした子だ。


そんなプティを見て魔法って便利って観音さんは思った。

だけどあのキックボード登録もなにもしてないよね・・・ダメでしょそれって。


とぅ〜び〜こんて乳。



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