第37話 第一回、我々はどこへ行くのか会議
「と、いうことでさ!あんた、面倒くさい性格してるけどアタシの仲間として認めてあげるわ」
「おっと満腹になった途端に機嫌がよくなって、面倒臭いことを放り投げてきたぞ?」
「シュン。黙って?」
「はい…」
ミレイユの剣幕な表情に僕は「はい」としか答えるしかなく、隣に座っているテオドラを見た。
テオドラもさっきまでの悲壮感は消えて、ニコニコしている。
「ありがとう、ミレイユさん」
「ミレイユでいいわよ。アタシもあんたのことテオドラって呼ぶし」
「ミレイユ…さん」
「さんを付けるなよ、でこ助野郎!」
野郎って、テオドラは女の子じゃないか。
ミレイユの屈託ない笑顔で、テオドラの心も溶けたのかな?なんてことを思いながら僕はテオドラに聞けなかったことを聞いた。
それはつまり、どうやって僕がこの村にいることを知ったのか?ということ。
「えっとね…」から始まって小一時間ほどテオドラの話しを聞かされたんだけど、ざっくり要約すると、魔力感知で僕を見つけたそうだ。
生家のあるラサから、今いるカマまでそんなに遠くはないけど、GPSや携帯がないこの世界で、はぐれた人を探すのは「人を探す専門家」に高額なお金を払うほかない。
うーん、やはり魔法は便利だ。僕は使えないけど。
「でさ、テオドラはこれからどうするの?ラサに帰るんでしょ?」
「ううん。帰らないよ?シュンくんと一緒にいる」
「いやいや、僕さ冒険者になっててさ、これから世界を見て回るつもりなんだけどね?」
「うん、いいよ。私はシュンくんについていく」
うーん、この軽いセリフなのにずっしりと重たい雰囲気はなに?
「いやいや、魔物だって魔獣だっているよ?」
「うん、いいよ。シュンくんと離れたら守ってあげられなくなるし」
「ミレイユ、止めてくれない?」
「なんで?行きたいなら参加すればよくない?」
「いやだって、危ないし」
「なによ、アタシだって危ない目には遭ってるけど、アタシの事は心配しないわけ?」
「それはちょっと違う気がする」
「いいよ。シュンくん。私はシュンくんと一緒にいたいから」
「そっか。わかった。でも、僕は万能じゃないし、強くもない。危険なルートは選ばないつもりだけど」
僕は、そこまで話すとテオドラからミレイユへと視線を移していく。
「ミレイユ。召喚契約に追記したいんだけどいいかな?」
「嫌よ」
「まだ内容も言ってないのに…」
「いい?シュン。あなたが言おうとしているのは、契約どうのってことじゃなく、アタシの義に反するから」
「じゃあ、お願いするよ、ミレイユ」
「それなら、許すわ」
ミレイユは満面の笑みで僕を見て、テオドラを見た。
「テオドラ、アタシはアンタを面倒臭い子だと思ってるけど、嫌いじゃない。シュンのことも嫌いじゃない。だから、シュンが斃れたとき、アタシはアンタを守ってあげる」
「ううん、シュンくんは誰よりも強いことを私は知ってるから、気持ちだけ受け取るね」
「いいよ、それでも。アタシは義を通す。それだけはわかって?」
「ありがとう。ミレイユさんは、優しいんだね」
「だから、さんを付けるなよ」
ミレイユは、照れ笑いしながらも、テオドラにワーワー言ってる。
テオドラの目には、僕は一体どう映っているんだろうか?
紫色の瞳は、昔と変わらず優しい光を携えていた。
「じゃあ、第一回、我々はどこへ行くのか会議~」
テオドラだけがパチパチと拍手してくれ、ミレイユはガン無視だ。
イベントの設営だとか、周辺のザコ狩りだとか、イベントの撤去作業とか、周辺の薬草摘みだとか、周辺のザコ狩りだとかをこなしつつ1か月ほど経った日。
朝食前に会議が始まった。
「では、早速なんだけど。大きな議題として、僕は女神カテリアから魔王討伐の神託を受けたんだよね」
「カテリア…って響きだけでウケる。アタシの酒の肴にちょうどいいわ。おっちゃん!ハチミツ酒ひとつね!」
ミレイユはケタケタ笑っている。
一方でテオドラは、「魔王って、架空の存在じゃないの?」と話しを促してくれる。
とりあえず、ミレイユは放置しよう。
「うん。この世界には7つの遺跡があって、遺跡の名前は不滅の門っていうんだ」
「不滅の門?そんなものが存在するの?」
「うん、不滅の門は確かに存在する。その不滅の門の封印が解かれると、魔王が復活するから魔王と戦ってねというのが女神カテリアから僕に下された神託。なるべく全力で逃げたかったんだけど。どうやら女神カテリアは本気みたいでね」
ミレイユは「だからカテリアって」とケタケタ笑っていて、テオドラは心配そうに僕を見ている。
「うん。別に不滅の門が壊されるのを知らないフリしててもいいかなって思ったんだよ。魔王が復活を目指して頑張ってる最中に逃げればいいかなって思ってたし」
「シュンって、普通に最低よね?」
変なところでカットインしてくるね、君は。
お酒飲んでなさいよ。
「シュンくんはそんな子じゃないって私は知ってるよ?」
「ありがとう。僕は僕の夢に忠実なだけなんだよ」
そう、僕には夢がある。
僕が作った世界を模倣して作られたこの世界を旅したい。
ゲームでは体験できない本当の感覚で世界を味わいたい。
「それでね、ラサの村から続いている西の街道、このカマの村のずっと先、ヴァリオニアの首都、ヴァリオニアには不滅の門が一つあるんだよ」
「じゃあ、ヴァリオニアに行くのやめたら?簡単じゃない」
「そうなんだけど、初期衝動って大事にしたくない?僕の場合は、西の街道を歩いてヴァリオニアに向かうと決めたからね」
「だから、向かうんでしょ?このまま」
「そう。向かうよ。ただ不滅の門がある時点で、魔王を復活させたい勢力と遭遇する可能性があがるよね」
「シュンくん、戦うの?」
「戦いたくないから、なるべく関わりたくないけどさ」
「けど、なに?」
ミレイユが、ハチミツ酒を注ぎながら聞いてくる。
「女神カテリアの方針だと巻き込まれる可能性が高いよね」
「あー…。あの性悪カテリアならあり得るね」
「女神カテリア様がそんなことをなさるのかしら?」
ミレイユとテオドラの意見は真っ二つだが、僕なら嫌でもエンカウントさせる。
だって物語が成立しなくなるから。
「うん、ってことでヴァリオニアに向かう道中、スキルとレベルを上げつつ仲間を増やしたいなって」
「シュンくん、私はあまり役に立たないかもだけど、ついていくよ?」
「ありがとう、テオドラは回復役に徹してもらえたら助かるかな?」
「なによシュン!アタシの花魔法が不安なわけ?」
「違うって!武器持ってて、ある程度修練積んでるのって僕だけだよね?だから僕はアタッカー。で、ミレイユとテオドラは回復役。ミレイユの【紫電の槍】は先制攻撃で使ってほしいけど」
「へぇ、あのゴブリンで吐きそうな顔してたのは誰だったかしら?」
「はい、僕ですよ。でも仕方なくない?人生初の戦闘だよ?今は結構強くなってない?」
「はいはい強い強い。じゃあさ、もっと強くならなきゃね。強くなりながら西に移動するってこと?」
「うん、そういうことだよ。魔王を復活させる勢力と戦えるくらいに強くなりつつ、世界を楽しまなきゃね!」
「ラサに戻ってもいいと思うんだけどなぁ」
ミレイユは安全地帯であるラサの村に戻りたがり
「私は、シュンくんが行きたいところについていくよ」
テオドラは、保護者然とした顔でニコニコとしている。
「じゃあ、部屋に戻ったら、準備しようか!」
僕は、厨房で料理鍋をふるっている宿屋のおやじさんに朝食の注文に向かった。
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