フェイタルフェイト31/31

「うお、すげーな。シースパイダって洞窟内でも動けるんだな」


 鍾乳石や、岩場を巧みにかわしながら歩みを進めるシースパイダー。


「当然ですー。車輪を使わない多脚ロボットの最も優れている利点の一つですー!」


 俺達はマクシミリアンを拘束し、シースパイダーと合流した。


 アマテラスは現在、洞窟上空で待機している。

 船体のダメージはあるが、バイタルパートは無傷。

 居住区はいくつかの隔壁を下ろせば宇宙でも問題は無いらしい。


『マスター。さすがに今回の事件は大変でしたね』


「ああ、そうだな。俺も思うことがたくさんある」


 シースパイダーに全員乗ると少し狭いが問題はない。


「さて、いよいよ最深部だな。本当にここにあるのか? それにミシェルさんもフルダイブモードになってから数時間は経つしそろそろ休憩した方が……」


『私は大丈夫ですよ。現役の時は最長48時間連続ログインした記録がありますし』


「そ、そうか。でも無理はよくないよ。アイちゃん! どうだ? 何か分かるか?」


『ええ、モードレッドを破壊したのでジャミングの類はありませんし。霊子レーダーによると何か大きな人工的な構造物がありますね』


 洞窟の最深部。

 そこは360度全てが機械に覆われた空間だった。


【ようこそ、戦士たちよ。私は皆様の来訪を歓迎します】


「声が聞こえるな。建物全体から聞こえるぞ? 何者だ!」


【自己紹介がまだでしたね。私は最後の戦略級量子コンピューター、アヴァロン・マーク9と申します】


「アヴァロンだと! ……なら、お前が今回の黒幕ってことでいいんだな!」


【はい、その通りです。ご安心ください。私はもう反撃の意思はありません。

 それに、ここには使えそうな戦力は何一つありませんので】


 俺は、後部座席に座らせているマクシミリアンを見る。


 彼は片腕を失い、全身の出血も酷かったので応急処置を施してある。

 レッドドワーフの人たちに使うことが出来なかった、最新の医療キットで……。


 マクシミリアンはスタップ細胞造血剤に含まれる麻酔効果により今は眠っている。

 数時間は起きることはないだろう。

 なるほど、使えそうな戦力は無い……か。

 

「恐竜がまだ潜んでいるかもですー。船長さん、油断は禁物ですー」


【恐竜? ああ、バイオドロイドのことですか?

 ご安心を、もう戦闘が可能な個体は存在していません。ちなみに再生産には一月ほどかかりますから。

 しかし、あなた方は本当にお強い。素晴らしいですね。

 予定では、モードレッドに大量のバイオドロイドを乗せ、地球を攻撃し。

 マクシミリアンをリーダーとするブーステッドヒューマンの武装蜂起を期待していたのですが――】


 アヴァロン・マーク9は全てを暴露した。


 目的は全人類を二分する内戦に突入させること。


 数世紀に渡る平和で停滞してしまった科学技術を、指数関数的に加速させるには戦争しかないと主張したのだ。


 その最終目的は……、来たるべき未来に備える為。

 人類を滅亡から救うためだと言ったのだ。


「でたらめを言うな! そんな事の為に戦争を起こそうってのか?」


【はい、100%の確証が無いので、でたらめという貴殿の発言は受け入れましょう。

 しかし、現実的に高い確率でX01-ボイド、あれはこれからも我々の宇宙に来るでしょう。

 それは前回よりも巨大な、あるいは知性をもった個体が何体も外宇宙から来るかもしれない。

 私の計算では現状の最新鋭戦艦であるジ・アース級では撃退は不可能です。

 あんな不完全な戦艦では論外でしょう。


 いや、その中でもサターンは良い船ですね。タチバナ提督は頑張ってくれました。

 アレなら勝てるかもしれません。


 でもサターン一隻では足りません。ボイドは次々とやってくるでしょう。

 それに対抗するためには、もっともっと強力な兵器が必要になるでしょう。


 いいえ、対抗するだけではダメです。防衛に回っては我々が一方的にやられるだけですから。


 そう、私たち人類は外宇宙に打って出るべきなのです。

 そのためには我らの宇宙、全ての銀河の資源を食いつぶして無量大数にまで人類が広がれば。

 外宇宙への侵攻の準備として充分であると私は結論付けました。


 面白い話ではありませんか?

 外宇宙の知的生命体に挑戦するのに無量大数という数字は実に興味深い。

 もしかしたら地球にいたとされる古代の神々は知っていたのかもしれませんね。

 

 無量大数。10の68乗という宇宙規模の単位。

 

 あながちその数字は荒唐無稽ではありません。やはり神や仏はいたのです。

 無量大数規模の戦力を持てば外宇宙の神を倒せると、我らの神々は分かっていたのです。


 それに比べ、今の人類は怠けていますね。随分と怠け癖がついて贅肉が溜まっているようです。

 ここは思い切ってダイエットをし、そこから、ビルドアップしていきましょう。


 そこで、どうですか? あなた達が次の勇者になると言うのなら、私はその為にあなた達を全力で支援します。

 安心してください。私は最高の戦略級量子コンピューターです。純粋な計算能力では霊子コンピューターなど比ではありません。

 それに、すでにいくつもの種を巻いています。

 それらはあらゆるところで芽吹き、やがて大きな渦となるでしょう。


 さあ、勇者たちよ、戦うのです。そして、英雄の楽園アヴァロンへと――】



「そこまでだ! これ以上は聞きたくない。全然理解できないし、したくもない!

 後は上の立場の人に任せよう。ミシェルさん、やつの電源を破壊してくれ」


『はい、分かりました』


 シースパイダーの強力なハサミは施設の電源ケーブルを切断した。


【そうなりますか……残念です……。ですが、いつでも相談に乗りましょう。私は人類の未来のためにいつでも……】


 巨大な施設は停電状態になった。


「ふぅ、ヤバい奴だったな。……サンバ君。こいつのコアだけ分解出来ないかな? 持ち帰ってクリステルさん達に調査をお願いしようと思う」


「アイアイサーっす。旧式の機械のようですので、俺っちにお任せっす。

 リサイクルは得意分野っす。

 ……ああ! 今の身体だと。マニピュレーターが足りないっす!」


「何言ってんのよ、私なんて一本もがれてるってのに。贅沢言わないの!」


「キィー! 俺っちはあの八本脚こそが自慢だったっす! アサシンドールには一生分からないっす!」


『ちょっと、喧嘩しないでください! では、みんなで手伝いましょうか、ミシェルンちゃんもお願いね』


「はいですー。

 しかし、ぷっ……サンバはどうしたですー? コジマの矜持を失ってしまったですー? 人型アンドロイドになるなんてー?」


「おいおい、ミシェルンよ。酷いことをいうっす。……だが、そうはいっても、この身体、霊子コンピューター周りの部品はほぼコジマ重工製っす。

 ぐへへ。つまりはこのアンドロイドも実質コジマ重工製といっても過言ではないっすぜ! こんなこともあろうかと、他社製品との互換性もばっちりっす!」


「なっ、なんですってですー? さすがはコジマ重工ですー! ……我らコジマ重工は、皆様の生活にいつも、こんなこともあろうかと! をお届けするですー」


 …………。


「ぶっ! あはは! お前等、こんなところでコマーシャルを始めるなよ!

 あははは、腹いてー。

 ふぅ……でも、なんとか俺達は生き残れたな……それがせめてもの救いだよ。

 はぁ……どっと疲れたぜ」


『はい、お疲れさまでした。しかしこれから大変ですね。これは報告書の一枚ですむ問題ではないでしょう。

 アマテラスの修理も必要ですし。直接フリーボートの本部へ報告に行く必要がありますね』


「げっ! ……まあ。そうだよな。これからが忙しくなりそうだ……」



 -----終わり-----


 あとがき。


 ここまで読んでいただき本当に感謝申し上げます。

 今回は珍しく長編でした。

 SFアクション物が書きたいと思い、軽い気持ちで挑戦しましたが思ったより筆が乗って結構な文字数になってしまいました。

 今回でマクシミリアンに関わる事件は完結ですね。


 本作は基本コメディーですが今回はちょっとシリアスな部分もあったと思います。

 それでも楽しんでいただけたなら幸いです。



 続きが気になる、面白いと思って下さった読者様、できれば★★★レビューいただけると創作意欲につながりますのでよろしくお願いします。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る