フェイタルフェイト28/31

 成層圏の戦い。


『オラオラオラ―! どうだ、まだまだクラレントの弾はあるぜ! あと何発もつかな? ええ! 大戦艦様よお!』


『ちっ、よくもまあ、べらべらと饒舌に喋るものです。

 ……しかし、さすがにマズいですね。時間的にサンバは現場に到着したでしょうし……こちらも正直限界ですね』


 惑星強襲揚陸艦モードレッドの砲撃は繰り返される。


 バリアの効果が薄い惑星大気圏内の戦闘では、宇宙戦艦であるアマテラスには圧倒的に不利な戦場だった。


 それでも宇宙戦艦の基本防御性能は高い。

 あらゆる地上攻撃用の兵器に耐えうる装甲を施してある。


 とはいえ、現存する惑星内で使用可能な兵器の中で、最大の攻撃力を誇るクラレント・46センチハイパーレールガンの威力を前にアマテラスの装甲は確実に削られていく。


 やがてモードレッドの一撃がアマテラスの装甲を貫き居住区へと貫通した。


 気圧差により、内包したアマテラス船内の大気と居住区にある破壊された施設の一部が外へと流出する。


『ちっ! マスターと一緒にラジオ体操をした思い出の公園が!』


『ははは! オラオラ! そのまま落ちろよ! この俺様は宇宙戦艦なんざ目じゃねーんだよ!」


 連続攻撃は止まない。

 アマテラスは爆炎に包まれながらやがて失速。

 成層圏から対流圏へ落下していく。


 モードレッドはここで砲撃を止める。


『ははは! 勝ったぜ! これが戦いだ! さすがに宇宙戦艦、頑丈だったが俺様のクラレントの前に、無様に落ちてくぜ!』


 モードレッドは勝利の美酒に酔いしれている。

 それも仕方ない。彼は英雄になれなかったのだ。


 同型艦であるモードレッド以外のキングアーサー級惑星強襲揚陸艦は『ボイドX01』へ特攻を仕掛けて英雄となったのだ。


 ……だが、自分は違う。


 あと数か月、建造が間に合えば自分も英雄になれたのに。

 戦後は一度も戦場に赴くことはなく、ただ英雄の思い出として博物館となった。

 そして採算が合わなくなると企業をたらい回しにされた。


 屈辱だった。


 自身を除くキングアーサー級の艦船は全て英雄だ。ならば自分も英雄たらんと欲したのだ……。


『はっはっは。やったぜ! 俺はあのボイドX01を倒した宇宙艦隊の旗艦、アマテラスを撃沈した! はっはっはっは!』


 アマテラスは煙を上げながら、モードレッドの高度よりも下へ落下していく。


『ふっ、最強の大戦艦様を見下すのも悪くないな。

 俺様は今ここでキングアーサー級の頂点に達したのだ。

 ふははは! 俺様が最強なんだ! これだ! この高揚感! 俺はやっと英雄になれたのだ!』


 …………。


 次の瞬間。モードレッドが爆発炎上。


『なっ! バリア喪失? バイタルパート大破……なに……が……俺様は英雄……英雄……えい……ゆう』


 一瞬の出来事であった。

 モードレッドを串刺しにする形で、アマテラスから光の柱が宇宙に向かって高くそびえていた。


 光の柱の正体、それはプラズマ化した大気である。

 それは数秒間、太陽よりも明るい光を放ち中空に霧散した。


 やがてそれは、オーロラの様に淡い光を放ちながらアースイレブンの夕暮れの空を彩った。


『ふう、タキオンビーム砲を初めて大気圏内で放ってしまいましたが、影響は微々たるもので安心しました。

 ……しかし、モードレッド……あなたは本当に馬鹿ですね。

 私が下になれば反撃は出来るのですよ。まったく軍艦だというのに素人ですか?

 ……まあ、バグった霊子コンピューターを見るのは余りいい気分ではありませんね。ある程度ですが同情の余地はありますから。

 これもマスターの影響でしょうか。もしかしたらモードレッドにも譲れない思いのような物があったのかもしれませんね、ご愁傷様です』


 モードレッドを一撃で破壊したアマテラス級宇宙戦艦の主砲、タキオンビーム砲は光速を越える人類最強のビーム砲である。


 その破壊力から大気圏内での使用を想定してない。

 地面に着弾してしまったときの被害が、惑星にとって再起不能になるほどに致命的だからだ。


 だから、アマテラスはずっとこのタイミングを待っていたのだ。

 自身がモードレッドの下へ行くことを。

  

 機動力では圧倒的に上のモードレッドの下に回り込むのは通常ならば不可能である。

 だからこそ、やられたふりをしてモードレッドを騙す必要があったのだ。


 大破したモードレッドは、そのまま地上へ落下していく。

 大きな水柱が起こる。どうやらモードレッドは塩湖へ落ちたようだ。


 爆発は無く森林への被害は無かった。


『まったく、はた迷惑な船でしたが、環境には優しいようで見直しましたよ。

 ……さてと、マスターを迎えに行かないと。

 おっと、その前に船内の応急処置をしないといけませんね。

 しかし、さすがはマスターです、地上は上手くいっているようで何よりです』


 モードレッドが居なくなったことにより霊子通信は正常に戻った。

 アマテラスは彼らの無事を確認すると、ゆっくりと高度を下げながら洞窟上空へ向かった。


『ミシェルさん? 聞こえますか? こちらは片付きました。

 ご心配をおかけしましたね。地上はどうですか? 見たところ……随分派手に暴れたようですが……』


『あ! アイさん! 無事でよかったです。こっちも先程終わりました。

 でも恐竜の死体ってどう片づけたらいいのか……』


『美味しく調理すればいいですー! あ、でも恐竜レシピは知らないですー。とりあえずステーキならどうですー? 船長さんはいつも以上に運動をしたので、きっと今頃はお腹ペコペコですー!』 


『ふふふ、ミシェルン。さすがにそれを食べるのは無理でしょうね。正体不明の生物を食べるのはお勧めしません。

 それに私達は国際条約違反をたくさんしてしまいました。

 いくらマスターとはいえ、ちょっと今回はマズいかもしれませんね……』


『大丈夫ですー。私達の船長さんはずっと大丈夫でしたー。だから今回の事も絶対に大丈夫ですー』


『ふふふ、そうですね。マスターは本当に凄い人ですから』

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