フェイタルフェイト11/31
俺達は倉庫に格納されている海洋調査ロボット『シースパイダー』を久しぶりに引っ張り出した。
「うーん。新品同然のようにピカピカだな。まるでスポーツカーみたいだ」
「ぐふふ、船長さん。それは俺っちが毎日メンテナンスしてるからっすよ。ピカピカに決まってるっす」
「そうですー。ちなみに、納品から一回しか使用してないですー。実際新品なのは当たり前ですー」
「お、おう。それはすまんな。コジマ重工さんには引き続き使用感のレポートを期待してますって言われてたっけ……」
「あのイチローさん、そういえば私、レポートを提出してましたけど何か問題とかありましたか?」
「問題ね……。実はあるのだよ……ミシェルさんのレポートが悪かったわけじゃない。
むしろその逆。とても高評価だった。ちゃんとキックバックも貰えた。
それもこのシースパイダーとオプション装備のフルセットが実質タダになるくらいのキックバックだった……」
「じゃあ、何が問題なんですか?」
「そう、あのレポートはコジマ重工の開発スタッフ達から絶賛されたんだよ。
つまりもっと使ってくれってこと。
でも俺達は海洋調査が全てじゃないだろ? ほら、この間は宇宙ステーションクロノスで孤独な少女たちの支援をしたし、その後は孤独なオタクの男子と一緒に寿司屋に招待したじゃないか」
「なるほど、イチローさんの言うとおりですね。このアースイレブンも海洋調査なんて出来そうにないですし……」
「そのとおりですー。アースイレブンはそう言った調査は一切禁止ですー」
「そうなんだよなー。仕事の合間でなら使用するとは言ったけど、ついぞその機会は来ず、こうして倉庫に眠っていたってとこだ」
「ぐへへ、船長さん、それなら良い案があるっす。このシースパイダーのオプションパーツを全て試してレビューするってのはどうっすか?」
「だから海洋調査は出来ないって言ったろ? ……まさか、これは水陸両用メカに変身できるのか?
サンバ君よ、つまりあれか? オプション装備の換装でズゴッグ的な運用ができるのかい?」
「ぐへへ、さすが船長さんっす、察しが良くて助かるっす。
これほどの高性能ロボットが海だけに限定ってコスパが悪いじゃないっすか。だからこそ全地形対応可能っす。
例えば断崖絶壁の高山地域でも、八本脚の抜群の機動性。
氷や沼地にもこの多脚ロボットは完璧なパフォーマンスを約束するっす。車輪など最早必要ないっす。
……そう、コジマ重工の技術は世界一っす!」
「世界一ですー!」
青とピンクの蜘蛛型ロボットは自社製品への誇りが半端ない。
……だがな、それゆえにコスパが悪いって言われたんだろうが……とは、さすがに言えないな。
ロボットとはいえ、彼等の誇らしげな表情が何となく伝わってきたからだ。
それに今回に関しては良いことだ。地上でも運用可能なのだから。
「おし、ならサンバ君よ。シースパイダーをこのジャングルで歩くのに恥ずかしくないような格好に仕上げてくれよ。
あと俺も乗るから座席は広めに確保してくれよな。仕事が終わったら、せめてジュラシックなパーク気分を一時間でも満喫したいんだ」
「アイアイサーっす!」
サンバは上機嫌に上腕マニピュレーターをグルグル回し、オプションパーツの入っているコンテナに向かう。
「……あの盛り上がってるところ申し訳ないんですが、そろそろ脳波パッシブセンサーの確認をしないと」
「おっといけない、忘れるところだった。ちなみにミシェルンよ、脳波パッシブセンサーってシースパイダーについてたりするのかな?」
「もちろんですー。エコでクリーンな世界を目指す世界企業のコジマ重工の特許製品ですー。
ちなみに評判はあまり良くないので開発費はペイ出来なかったですー」
「……そうなのね。まあ、特定の団体にしか使用されないんじゃしょうがないか。
まあ、技術開発とはそういうのも許容してこそだしな、現に今こそ俺達には必要だ。ちなみにここから地上観測は可能かい?」
「もちろんですー。でも精度はだいぶ落ちますよ? 誤差10メートル位にはなるかとー」
「ああ、それでいいよ。じゃあ、その映像をブリッジに繋いでくれ。光学カメラだけだとよく分からないからな。人の反応があった方がいいだろ?」
「了解ですー。ちなみに作業には少しお時間頂きますけど、お食事の後でいいですー?」
「おっと、そうだった。ミシェルンの本業を邪魔しても悪いしな、暇な時にたのむよ。じゃあ、よろしく! そろそろブリッジに戻らないとアイちゃんに怒られるしな」
「あの、イチローさん、私はここに残ってもいいでしょうか? 少し興味がありますので……」
「もちろん。興味があることは何でもやってみるといいよ」
ミシェルさんは作業を手伝うそうでその場に残るようだ。
機械が好きなんだろうか。
パイロットとしての適正もありそうだし。今後の就職先は明るいだろう。
コジマ重工へ就職もありだな。こっそり社長さんにコネを作っとくのもありかな。
まあ彼女のやりたいことが別にあったら有難迷惑だし、しばらくは様子をみるとしよう。
そんなことを考えながら一人アマテラスのブリッジへ戻る。
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