フェイタルフェイト5/31
さてと、ようやく自由時間だ。
普段の俺は休暇では割と時間を持て余す方だ。
SNSやネットゲームとかにも興味がない。
まあ映画とか漫画は見るけど、昔ほどの情熱があるわけでもないのだ。
25歳独身、俺の恋人は仕事なのだ……。
いや、ちょっとカッコつけた、でも仕事が好きなのは本当だ。
案外福祉事業として宇宙を駆け回るのは楽しいしやりがいがあるのだ。
だが、今この瞬間においては待ちに待った休暇なのだ。
そう、さんざんお預けにされてた例のアンドロイド開封の儀である。
それも俺の貯金をほとんど使って買ったスペシャル仕様だ。
船長室には入ると、俺は部屋の鍵をしめる。
通信端末もオフラインを確認、プライベートモードってやつだ……。
「よーし、いよいよ開封の儀の時間だぜ! ブンブンハロー、オレチューブ……」
船長室の中央には先日サンバ君に運んでもらったままに大きな箱が置いてある。
大きな箱だ。人一人入れる程の……。
まあ、アンドロイドが入っているんだから当たり前だ。
ゴクリッ。
思わず喉が鳴る、緊張の瞬間だ。
……本当に誰もいないよな。
こっそりマリーさんが潜んでいないだろうか。
彼女は小さいからな。
俺は念のため、机の下やクローゼット、ゴミ箱の中を確認する。
そして再び扉に鍵がかかっているのを確認すると、箱をゆっくりと開封する。
「うお! まぶしい!」
もちろん光など放っていない。
気持ち的に眩しいのだ。
そこにはまさに理想の美少女アンドロイドが……。
しかも全裸だ、もちろんそういう目的には作られていないので大事な部分は無い。
……だがリアルな質感、触ったらさぞかしスベスベなのだろう……。
い、いかん、早く服を着せないとだ、俺には刺激が強すぎる。
このままでは俺チューブがブンブンハローしてしまう。
……しまった。ここに来て俺は服を用意していない。
船長室のクローゼットには俺の私服しかないし。
とりあえずジーパンにチェックのシャツを……。くそ、オタファッションじゃあ、せっかくの美少女アンドロイドが台無しじゃないか。
ワイシャツはクリーニング中だしな。くそ! 裸ワイシャツのチャンスだったのに。
今からサンバ君のところに行っても怪しまれるだけだしな……。
いや、サンバ君なら俺の男心を理解してくれるはず……。
だが、洗濯中のサンバ君の仕事を止めてもあれだしな……彼の仕事を奪うのは気が引ける。
「……ふぅ、おちつけ俺! 取り乱し過ぎだぞ! ……うん? 付属品? 衣類一式……」
俺は箱の隅にある袋に目を向ける。
「……だよな。とうぜん服は用意してあるか」
俺は落ち着きを取り戻すと、付属品の目録に手を伸ばす。
【カスタムアンドロイド『ファイアフライ』付属品目録】
・フェーズ6防弾セーラー服(『ネオ・アキハバラ』オリジナルデザイン。特許出願中)
・フェーズ6防弾スカート(『ネオ・アキハバラ』オリジナルデザイン。特許出願中)
・スポーツブラジャー(白色)
・スポーツショーツ(白色)
・スクールソックス(紺色)
・アサルトローファー(黒色)
・SK-E48近接戦闘用超電磁警棒・改(超振動カタナブレード。銘:ホリ・エイタ)
ふう、一安心だ。
衣類の他に武器があるのは驚きだが……。
そういえばホリ店長さんが言ってたな。
カスタムアンドロイドのベースは宇宙軍海兵隊仕様のアサルトドールだったらしい。
そしてアサルトドールの標準装備としての警棒である。
ちなみにこの警棒はかなりカスタムされているようだ。
警棒……ね。どこが? って感じで原型が無い。
ベースの素材はスターナイツ社製エレクトリックウエポンシリーズ48番の超電磁警棒。
元々は単純な電気ショック警棒だった。
俺もこの警棒は護身術の研修で見たことがある、折り畳み式のごく普通の警棒だ。
……だが今、目の前にあるのは完全に日本刀である。
ホリ店長のこだわりで魔改造されているのだ。
そう言えば仕様の打ち合わせの時にホリ店長は熱をこめて語っていたな。
セーラー服にはカタナだと……まあ俺としても異論はない。
黒髪セーラー服美少女とカタナはベストマッチングなのだ。
……しかし、俺はここにきて女性型アンドロイドを購入した後ろめたさよりも、これって武器の密輸じゃないか? と不安になるのだった。
いや、だがしかしだ。
巨大クラゲの洗脳事件以来、アイちゃんはアンドロイドになってくれない。
軍用アンドロイドでないとあの毒電波に対抗できないしな……。
まあ、とりあえず起動して動作チェックまではしないとだ。
返品するかしないかは後で相談すればいいのだ、何事も前向きに。
そう、当面の課題は……服を着せることからだ!
…………。
俺はアンドロイドのつま先を持ち上げ、ゆっくりと下着を通す……。
もう片方のつま先も同じように……。
そしてそれを上へと引っ張り上げる……。
指に感じるのはアンドロイドとは思えないほどのふとももの肉感。
次はスポーツブラジャーを着せる。
両腕を上に持ち上げないといけない。
電源が入っていないのか腕一本でも案外重量があるものだ。
この点はちゃんとメカなんだなって思う。
だが、二の腕の柔らかさは本物だった。いや、俺は本物を知らないんだけどな……。
…………。
さてと、次はセーラー服だ、だがどうやって着せればいいのか。
残念ながら俺はセーラー服を着た事がない。
当たり前だが……。
そして脱がせたこともない。
歌のように世界は優しくないのだ……。
ホリ店長さんには後でクレームを言わないと。
セーラー服の着せ方が良く分からなかったと、できれば取説が必要だと言っておこうか。
それくらいネットで調べろと言われるかもしれない。だがこの作業中は完全オフラインの場合が多いのではないだろうか。
今の俺がそれなのだから、同じケースはあり得ると思う。
サービス向上に努めてもらいたいものだ。
…………。
悪戦苦闘の末、無事に着せることはできた。
だが、その間の衣擦れの音に俺は何とも言えない背徳感を覚えたのだった。
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