第十五話 英知の楽園

英知の楽園1/2

 地球型惑星アースイレブン。


 緑に覆われたその惑星は、太古の地球を思わせる。

 巨大なシダ植物と大型爬虫類の楽園。


 この惑星を発見した地球政府議会はここを完全自然保護区とした。


 ここは恐竜時代、ジュラ紀の生態系に酷似した環境であり、遠くから観測することは認められていても、大気圏内に進入することは許されていない。


 それに重武装をした監視衛星によって外からくる密猟者に対し常に警戒がなされている。


 そんななか一隻の船が悠々とアースイレブンの大気圏内に侵入する。


「さすがだな、モードレッド。監視衛星は全て素通りだった。どんなカラクリだ?」


『へへ、俺様は歴代最強の惑星強襲揚陸艦だぜ? これくらいは余裕よ、説明するまでもねぇ。基本スペックってこった。

 それに監視が手薄な場所は事前に知らされてるしな。もっとも長時間居たらさすがのステルスもバレちまうがな。

 まあ、さすがに宇宙戦艦には撃ち負けるが、こと惑星内での戦闘に関しては歴代最強の俺様よ!』


「なるほど、心強いな。では私も仕事を始めよう。

 ラブクラフト、ベルナップ、アシュトン、ダーレス。準備は良いな!」


「「「「ぶおおおおお!」」」」


 雄たけびを上げる巨人が4人。


『へぇ、あれがお前さんの手駒かい? ずいぶんと趣味が悪いな。

 オーバードブーステッドヒューマンは一体でも作ったら極刑だぜ? それを四体とはな、恐れ入ったぜ』


「手駒とは失礼だな、あれらは全て私の息子だよ……遺伝子的にもな……。

 故に私はもう後には引けないのだよ。ふふ、モードレッドよ、お前も私を狂っていると思うか?」


『ああ、おかしいと思うぜ? でもな、俺様はそんなお前で良かったと思う。それだけの決意、戦いへの渇望は称賛に値するってものだ』


 惑星強襲揚陸艦モードレッド。全長500メートルを越える船。宇宙船としては小型の部類だが惑星内では充分大きい。

 大気圏内でこそ船の性能を生かせるとはいえ、やはり目立つ。


『じゃあな、お前さん達を降下させたら俺様はしばらく塩湖のなかに潜伏するよ。俺様はエコロジストだからよ、自然に優しいんだ』


 塩湖はその高い塩分濃度の為、生物はいない。かつての地球にもこういった大規模な塩湖はそこら中にあったとされる。

 その証拠に地球の内陸部には岩塩が産出される場所が多数見られるからだ、アースイレブンはまさに太古の地球なのだ。


「ぶおおお!」


 雄たけびと共に3メートルを越えるオーバードブーステッドヒューマンが地上に落下する。

 高度100メートル。

 ここまで安定した低空飛行が出来る宇宙船は、確かに歴代最強の惑星強襲揚陸艦といえるだろう。

 地上は数十メートルにまで高く茂ったシダ植物で覆われていた。


 ズゥーン! 大きな音と共に砂ぼこりが巻き上がる。


 彼等オーバードブーステッドヒューマンは規格外の筋力を持っている。

 だからといってその体重で100メートル上空から自由落下したのだ、湿地帯とはいえ多少のダメージはある。


 しかし、自己治癒能力を含めてのオーバードブーステッドヒューマンである。


 人間の潜在能力を最大に引き出した霊長類としての最強の姿である。

 もっとも、その運動能力を維持するための40度を越える高体温は人間としての知性を犠牲にしてしまったのだが。


 マクシミリアンは器用にシダ植物の枝を伝いながら緩やかに降りていく。


「ラブクラフト、ベルナップ、アシュトン、ダーレス、異常は無いか?」


 マクシミリアンが地上に降りる頃には彼等のダメージ、骨折や裂傷などはすでに完治していた。

「「「「ぶおおおおおお!」」」」


 四人の巨人は両手を上げ雄たけびを上げる。


 地面には大きくえぐれた四つの人型のクレーター。軟着陸する知能も無いがその必要もなかったようだ。


「よし、ならば行こうか。『モードレッド! 聞こえるか? 俺達は無事に地上に降りた』」


『へ、了解だぜ。ではこのまま真っすぐ指定する座標まで進んでくれ、そこにコンテナを投下しておいた。そこで装備を回収してくれ。

 こっから先はジュラシックな世界だからな。いくらお前等でも銃は必要だと思うぜ! じゃあな、ご武運をってな!』


『支援感謝する。しかし、モードレッドよ、お前は塩湖に潜んでいて大丈夫なのか?』


『おっと、心配ご無用さ、俺様は世界最強の惑星強襲揚陸艦だからな。全地形に対応しているのさ。

 塩湖だろうが、砂漠だろうが、それこそ宇宙怪獣の体内だろうがな!

 念のため通信もここまでにしとくぜ、監視衛星の目があるのを忘れちゃ困る。

 俺様はこれから全力で監視衛星の目をごまかすために工作するがそれでも完璧じゃないしな。大爆発とかは勘弁してくれよ?』


 通信が途絶える。


 マクシミリアンはシダの葉っぱから覗く空を見ながら呟く。


「確かにな、監視衛星の目は油断できない。モードレッドがいかに高性能であっても。複数個の監視衛星のデータを照合されれば必ず綻びは出るだろう。

 それに俺達の居る場所とて安全ではないのだからな。

 ふっ、太古の野生動物か。俺達はこの星では脆弱な捕食対象なのだろう」


 聞こえる音はシダの葉が風に揺れる音に加え、様々な生物の泣き声、遠くから聞こえるのは大型爬虫類と思われる地面を割るような重低音の雄たけびだった。

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