ゴッドイズデッド3/4

 ――2901年。


 それは遥か遠くの宇宙に突如として現れた。


 当初は質量的に考えて、軌道を外れてエネルギーを失った中性子星かと思われた。

 それは光を発しておらず、ボイド空間にいたため観測自体は不可能であったが、異常な重力波の変動により初めて観測された。


 それは重力による軌道ではなく、能動的に宇宙空間を移動していたのだ。

 すぐに本格的な調査が始まり科学者たちはさらに驚愕した。


 科学者たちはそれを未知の巨大天体として『X01-ボイド』と命名した。


 直ぐに連合政府は対策会議を開く。

 まずは、平和的に外交的アプローチから始まった。


 しかし、あらゆる信号、数学を用いた、意味ある情報を何度も相手に送ったが全く反応が無かった。

 相手が知的生命体であるなら、例外なく理解でき、何らかの反応を示すはずと言っていた数学者達の期待は水泡に帰した。


 その後も科学的調査は進められた。

 当初、敵対行動と思われるような調査船の接近はためらわれたため、霊子による揺らぎを観測するにとどめていた。


 しかし、いずれも『X01-ボイド』の表面付近で遮断されたため、思うような成果は得られなかった。



 ――だが、数か月が経つと状況は変った。


 それは太陽の二倍程の質量のある恒星を丸飲みしてしまったのだ。


 科学者達は理解できなかった。だが状況証拠としてそうとしか言えなかった。

 X01-ボイドに接近してきた恒星が一瞬で無くなっていたのだから。


 それは計算結果から光速を越えるものだった。

 当時の霊子望遠鏡、及び霊子レーダーの性能では何が起きたか理解できなかった。

 超光速を実現した人類でもその動きを捉えることが出来なかったのだ。


 例えるならシャッタースピードを越える高速な物体をカメラに捕らえることができないように。

 人類は技術力で劣っていると、事実を突きつけられるような出来事であった。


 政府は『X01-ボイド』を敵対する生命体『星喰い』とし、人類、宇宙の敵と正式に認定した。



 すぐに大規模な宇宙艦隊が編成される。


 日本からは最新鋭のアマテラス級戦艦、アマテラス、ツクヨミ、スサノオの三隻に加え。

 同等の宇宙戦艦および、戦力となる艦艇各種が連合所属の各国から選抜された。


 中には旧式の艦船もある。

 だが、質量の大きな対象に当たるには総力戦しかありえないのだ。


 各艦はいずれもタキオンエンジン搭載艦。

 最大戦速で航行し、数か月。ついに『星喰い』のいるボイド宙域に到達した。


 即席ではあるが各国が選抜した最高戦力といえる。

 堂々たる宇宙艦隊、その姿はまさに壮観であった。


 接敵、まずは戦艦による最大出力のタキオンビーム砲によるロングレンジ攻撃。


 アマテラス級以外にも各国からはアヴェンジャーズ級、秦王級、シヴァ級、ジャンヌダルク級、オーディン級、チンギスハーン級……等々の同クラスの戦艦数十隻によるタキオンビーム砲の一斉攻撃である。


『主砲着弾まで5秒。反撃にそなえて各々バリア展開!』


 旗艦をまかされたアマテラスが各艦に指示をだす。


『3、2、1。主砲着弾。まもなく観測データー届きます。

 …………提督、相手は無傷のようです』


「みたいだな……。データは即座に分析。各艦に乗っている技術者たちと情報を共有しながら戦術を考えようじゃないか。

 ……ふぅ。アマテラスよ……我々は勝てると思うかね……」


 そう言うのは、アマテラスに乗艦した本作戦の責任者。

 かつてはアマテラスの艦長を務めており、現宇宙連合艦隊司令官のカスガ上級大将である。

 アマテラスブリッジ内には他にも艦長以下、技術士官数名と民間から天文物理学者が数名乗艦している。


『そうですね、提督。私は戦艦ですから、勝てると言いたいところですが……。

 残念ながら完全に未知の敵、それに単純な質量差でいえば我々は遥かに劣っております』


「ははは、アマテラスは相変わらず正直者だ。軍部の奴ら、定年を指折り楽しみに待っていたこの老人にこき使いおって……」


『それだけ提督が優秀ということです』


「ふ、そう言ってくれて嬉しいよ。まさしくアマテラス、日本人の母と言える存在よな」


『またそれですか、それは神話の天照大神であって私とは全く関係ない神様です。

 それに女性への口説き文句としてはちょっと大げさですね。奥様に言いつけますよ?』


「ははは、それは勘弁だ。あれは昔から嫉妬深いでな。今回の遠征でも随分と怒られたものだ。

 無事に戻ってこなければ離婚だと言われたよ。この歳で熟年離婚は困るよ、まったく。はっはっは」


『……よい奥さまですね。では無事に戻れるよう精一杯頑張りましょう』


「ああ、頑張るとしよう。

 それにだ、例え相手に圧倒的質量差があるとして、それが何だと言うのだ?

 人類は昔から質量の大きな者に勝つために様々な知識や技術を身に着けてきたのだからな。さしずめ奴は現在のマンモスよ、ならば勝てるのが道理というもの!」

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