第十二話 カニパーティー
カニパーティー1/8
【最新のニュースです。長い間メンテナンスを受けていた戦艦スサノオですが。本日、無事に戦争博物館への展示が再会されました。
宇宙ステーション『クシナダ』の従業員及びファンの皆さんは久しぶりの展示にほっと胸をなでおろしているようです。
またそれに伴い戦艦スサノオの制御コンピューターAIからの感謝のメッセージが一般公開されました。
『アーススリーの皆さま、長らくご心配を掛けたでござる。
外部のハッキングと思わしき緊急事態により、乗客の命を最優先にしたとはいえ独断での航行は各方面に迷惑を掛けたでござる。
本日、取り調べ及びメンテナンスを終えて新装開店。皆の来館をお待ちするでござる!』
……はい。この機会に皆さまも戦艦スサノオ及び戦争博物館への来館をしてはいかがでしょうか――】
アーススリー国営放送のニュース番組を見ながら俺は思う。
スサノオさん、まさか裏でずっとゲームやってましただなんて誰も知らないだろうな。
いや、案外、感のいいプレイヤー達には『卍スサノオ卍』が本物の戦艦スサノオだとバレてるんじゃないだろうか。
……まあ証拠もないし、ロールプレイングをしているだけの、ただの痛いおっさんだと思われるのが関の山か。
【では、次のニュースです。アーススリーの特産品であるブラックロッククラブの漁獲量減少に伴う、価格高騰の問題でアーススリー政府は地球連合への支援を要請したと発表。
近いうちに、調査団が派遣されるとのことです――】
「なあ、アイちゃん、調査団って俺達のことだよな。大げさじゃないか?
まあ元宇宙戦艦だからアーススリーとしては結構な規模だと思うけど……。
おっと、アーススリーを田舎だと馬鹿にしてるわけじゃないけどな」
そう、馬鹿にしているわけではないが、アーススリーは地球からしたら田舎である。
もちろん大都会は存在するし経済だってしっかりしている。
だが軍事に関しては後進国と言えるだろう。
アマテラス級の宇宙戦艦の規模からしたら大事に見えるのには違いないのだから。
「マスター、今回の問題がそれほどに深刻だと判断されたのでしょう。おや、船長室にお客さんですよ?」
「――失礼します。スズキ船長。本日の活動レポートを書き終えましたので、確認をお願いします」
船長室へ一人の女性が入ってきた。
赤毛のショートヘアの女性。
18歳にしてはやや幼く見える容姿は、彼女の今までの人生を思うと何とも言えない気持ちになる。
名はミシェル・クロスロード。
現在、ボランティアとして福祉船アマテラスで勤務している。
「お疲れ様。ちなみに、船長って敬称は無しでいいよ。そうだな、今まで通りさん付けがちょうど良いよ。
ちなみに俺も君のことはクロスロードさんって呼ぶから、それ位の関係から初めて見ようじゃないか」
「はい、スズキさん。……今後ともよろしくお願いします」
少し、ぎこちない。
それはしょうがない、彼女は精神病院から退院したばかりだ。
社会になじむまで少し時間が掛かるだろう。
しかし、この人があのインフィの中の人だとは誰も思うまい。
いや、現実は案外そんなものなのだろう。
21世紀にも普段は年相応の子供なのに、ネットゲームとなるとやたらイキリ散らかすキッズが問題になったこともあるし。
現在でもきっとそうなのだろう。
最も、今回の事とは状況が違うし一概には言えない。ゲーム内での彼女は社交的過ぎるくらいだった。
ようはネットと現実での人格は異なると言うことだ。どちらが本来の彼女なのか……。
いや、どちらも本当の彼女なのだろう。
「船長さん。インフィさん。コーヒーを入れたですー。少し休憩をお勧めするですー」
「ミシェルンちゃん。やっぱり、その呼び方はちょっと恥ずかしいかな」
「でもミシェルさんと呼ぶと名前被りでちょっと微妙な空気になってしまうですー。クロスロードさんとお呼びするですー?」
「うーん、たしかに。苗字もちょっと他人みたいだし。じゃあ特別にミシェルンちゃんだけはインフィと呼んでいいよ」
そう、先日のこと、初めて彼女と会ったときにどんな反応があるかとひやひやしたものだ。
彼女はミシェルンを始めサンバもアイちゃんも全て人工知能だと知らなかったのだ。
騙したのかと怒られると思ったが、そんなことはなかった。特にミシェルンをみて。
ああ、なるほど。どうりで蜘蛛モンスターの扱いが上手いはずだと納得して、ゲーム内と変わらない友好関係を築いている。
たまに一緒に料理の話をしたりお菓子なんかを作っているらしい。
友達が出来るのはとても良い事だ。それがロボットであったとして何が問題だろうか。
「さて、クロスロードさん。今回の仕事だけど、書類には目を通してくれたかな?」
俺は船長室にある応接用の机で互いに座ると本題に入ることにした。
明日から本格的な調査に入るからだ。
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