シンドローム10/27

「マスター。そろそろボスキャラ登場ですね」


 ゴゴゴゴ!

 地面が揺れる。


 目の前の要塞跡が爆発し土煙に包まれる。


 ガラガラと瓦礫をのけながら、巨大な機械が出現する。


 ギュルギュルとキャタピラの音に、土砂をかき分ける音が聞こえる。

 さしずめ土木工事の現場の様な音がした。


「今回のボスは機械属性のボスですね。全ての物理攻撃に耐性を持っています。

 有効的な武器は防御貫通があるアロンダイトなんですが。前回撃ちすぎで……ちょっとご遠慮いただきたいと言いますか」


「お、おう。悪かったな。ならグレネードはどうだ? 硫酸弾なら効くだろ?」


「はい、さすがマスターです。ゲームに詳しくなってきましたね」


「まあな。さすがに慣れて来たよ」


 今回のボスは巨大な大砲にキャタピラ、そしていかにも重装甲な車体はまるで戦車のようだ。


 いや、あれは回転砲塔でないから自走砲だっけか? 弟がそんなこといってたな。


 そういえば、ここは高射砲跡だっけ。


 てことは、あれは高射砲の生き残りに悪魔が憑りついて魔改造された悪魔と兵器のハイブリッドってことか。


【悪魔の高射砲・デスガン。人類最後の砦であるキャメロット要塞。その最大の武器は強力な高射砲、だが皮肉にも――】


 スキップっと。


「マスター、この敵は結構強くてですね。まずソロ討伐は不可能ですね。それこそレベル69のソーサラーでも厳しい相手と言えます。

 なにより、強力な物理耐性。加えて魔法耐性も高いです。

 よって強力な酸や腐食攻撃、あるいは防御無視の武器が唯一の攻略手段と言えます」


「なるほど、あれ? 機械なら雷に弱いんじゃないの? アイちゃん、この前凄い雷魔法使ってたじゃん」


「いいえ、奴の外装は鋼鉄の防弾鋼板に包まれています。電撃なんて奴の表面から地面に逃れて意味がありません」


「あ、そうなのね、そこは結構科学的なんだな。俺の時代のゲームと違う……」


 ドドドンッ!

 遠くから聞こえる打ち上げ花火の様な爆発音。


 そして、ピューっと空から甲高い音が聞こえる。


 ズドドドンッ! 

 目の前の地面にそれは着弾したのか。大きく砂煙をあげた。


「マスター、さっそく敵が撃って来ましたね。遠くにいると敵は榴弾砲を撃ち続けてきます。

 命中率は低いので滅多に喰らうことはありませんが、もし喰らってしまったら大ダメージです。

 ここは一気に接近してしまいましょう。そうすれば奴は高射砲を撃てなくなります」


「おっけー。接近すれば問題ないってこと?」


「はい、接近さえすれば敵の武器は六連装5.56mmマシンガンのみですので、やりようがあります。

 マスターの防御力なら問題ないでしょう。ですが、ミシェルンの防御力だと瞬殺されてしまいますね。

 ミシェルンの盾になりながら全力で接近してください。

 ちなみにサンバは戦力になりませんので、このままアイテム回収をしてもらいましょう。

 マスター、ここからは本格的にパーティースキルが要求されます。頑張り時ですよ?」


「おう、俺は船長だ。乗組員の命は守る! 仲間だからだっ! ドンッ!」


「船長さんカッコいいですー。わざとマンガっぽいセリフで、照れ隠ししているのも高評価ポイントですー」


「うふふ。ミシェルン。マスターは普段からカッコいいですよ?」


「よせやい。照れるじゃないか。よし、そんなに言うならカッコいいとこみせましょう。

 ミシェルン! 俺の後についてこい。アイちゃんは……まあ余裕だよね」


「はい。私は自分のマジックシールドとリジェネレーションを組み合わせれば敵の攻撃よりも回復が上回ります。

 ですがソーサラーではあの敵を倒す火力がないですね。今回の攻略の鍵はミシェルンの溶解液とマスターの硫酸弾になります。

 特に、ミシェルンの種族特製として毒液特攻がありますので、ダメージの大幅な増加が期待できます」


 ならば話が早い。


「よし、行くぞ! ミシェルン。敵が撃ってきたら直ぐに俺の背中に隠れろ! お前は絶対に守ってやる!」


「うふふですー。船長さんからプロポーズされてしまったですー。アイさんに申し訳ないですー」


「なんでそうなる! ここは熱血少年漫画のノリで行くんだ! 恋愛など不要! 走れ! 走るんだミシェルン!」


 俺達は全力で走る。

 途中、高射砲の射撃は続く。


 だが命中率は低いのは本当で、俺達の周囲をまるで特撮映画のエフェクトと言わんばかりの無駄な爆発に終始している。


 ちなみに当たると結構ヤバいらしい。それに命中率も時間と共に上がるらしい。

 遠距離攻撃でちくちくやるスナイパー戦法だとあっけなくあれにやられてしまうそうだ。


 全体的に遠距離攻撃が強い設定のこのゲームで、そうはさせまいという開発側のアンサーだとユーザー間で噂されるほどにはやっかいな敵らしい。


「マスター、接敵までは敵の砲弾は気にせず走ってください。私はマスターの上空を飛行して火炎魔法で榴弾砲は可能な限り迎撃してみせますので」


 頼もしいぜ。

 俺の上空を飛行魔法で援護してくれるアイちゃん。

 俺とミシェルンはひたすらに全力で走った。

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