シンドローム6/27

 ドドドドッ! ワー! ワー! ドドドドッ!


 アロンダイトの射撃モードを解除すると俺の耳に遠くから地響きが聞こえる。


「マスター。ゴブリンリーダーの死を切っ掛けにゴブリンの軍勢が一斉にこちらに襲い掛かってきてます。迎撃準備を。全て狩って経験値を稼ぎましょう」


「おう! よし。 では各々、練習がてらにサクッとやってしまおうか、アイちゃんは二人がやられないようにサポートを頼む」


 俺が立ち上がるとアロンダイトの銃身は二つに折れ曲がり背中に戻る。

 次は両手の武器を試すことにした。


「まずはNGZ-46グレネードランチャーを試すとしようか」


 敵は100匹以上はいる。俺は迫りくる敵の上空に向けてグレネードを数発放つ。


 敵集団の中央でさく裂した榴弾によってゴブリン達が木っ端みじんに宙に舞う。

 接近される前に範囲攻撃で敵の数を減らす作戦だ。


 グレネードを撃ち尽くす頃には敵は半分以下に減っていた。


「よし、ここからはマシンガンの出番だな」


 俺は右手に装備しているAK-B48汎用機関銃を敵に向けるとトリガーを思いっきり引く。


 この機関銃のメリットは弾丸の安さにある。東側諸国の標準規格7.62x39mm弾は一発1ゴールドだ。

 アロンダイトが一発1000ゴールドということから、その安さは言うまでもない。


 威力こそ低いが連射速度の早さに加え、マシーンの種族特製、銃火器のダメージアップと合わせると序盤から中盤まで使える優秀な装備だ。


 ババババ! と電動ノコギリの様な音をたてながら機関銃から勢いよく炎と煙が吹き出る。


 目の前のゴブリン軍団は次々と倒れていく。


 俺の足元にはゴロゴロと空薬莢がころがり、それは山のように積み上がっていく。

 ……どこにその量の弾薬が入っていたのかは謎だが、ゲームに突っ込んでもしょうがない。


 だがどうだ、ゴブリンの雄たけびは直ぐに聞こえなくなっていた。


「カ・イ・カ・ン!」


 あれか、機関銃が戦争を変えたって聞いたことがあるがまさにこのことだ。


 密集隊形で突撃するという戦術が消えたというが、なるほど改めて理解せざるを得ない。


 なんやかんやで俺一人で敵をほぼ倒してしまった。サンバやミシェルンのレベルもかなり上がったことだろう。

「船長さん。レベル10から上がらなくなっているですー。サンバのレベルは20だというのにずるいですー」

「ミシェルン。ワーウルフはこれでレベルカンストだ。これから敵を食べれば新たなモンスターにクラスチェンジできるそうだ。ガツガツ食え!」


「了解ですー。初めて食べるゴブリン。味がたのしみですー」


 モンスターという職業は異質だ。

 装備はできないがレベルアップと食べたモンスターによって種族が変化する色物キャラである。

 かなりの玄人向けであり。なにより敵モンスターを食べるという習性からマニアックな需要のある職業で、やはり人気は低い。


 味覚をフィードバックするフルダイブMMORPGにおいて、モンスターの肉を食べるというのは敷居が高いと言わざるを得ない。


 故にコアなファンが付くのも世の常。少数ではあるが需要はたしかにある職業だ。


 実際マシーンに比べて経済的であり、装備を必要としないのはメリットしかない。


「うーん。船長さん。ゴブリンはかなり臭いですー。美味しくないですー。うむむー。ニンニクにコショウ、しょうが、酒で付け込めばワンチャンあるかもですー」


 そうだな、余程のゲテモノ食いでないとやっていけないだろう。ある意味リアルモンスターでないと成り立たない職業と言える。


 ミシェルンは良い。調理ロボットだから。今後、普段の料理に味の革命をもたらすと信じて……。


「おやおやー、船長さん! 私の身体がなんか光ってるですー。遂に進化がはじまるですー?」


「おう、これがあれか、モンスターの進化というやつか!」


 進化先のモンスターは食べたモンスターによる影響、あるいはプレイヤーの資質によって。ある程度ランダムで決まる。


 進化先のモンスターが決まっていたら攻略が簡単になるためランダムな仕様のようだ。


 これがモンスターの醍醐味なのだろう。

 しかし、ミシェルンの体が膨らんだかと思ったら、モサモサした脚が何本も生えてきた……。


 …………。

 ……。


「うえー。船長さんー。不細工になってしまいましたー。こんな格好は屈辱ですー。さっさと次の進化に進まないとですー」


「お、おう。そうだな。どんまい。だがミシェルン。その身体はある意味最適解じゃないのか?」


 ミシェルンが進化した種族は『ピンクポイズンスパイダー』


 そう、ピンクの蜘蛛型ロボットのミシェルンは皮肉にも、ピンクの毛がもさもさ生えた巨大な毒蜘蛛のモンスターに進化してしまったのだ。


 しかもリアルな造形で正直気持ち悪い。ミシェルンとしても中途半端に似ているため、かなり不細工だと思っているようだ。


 あれか、手足の数が同じで体形も似ているが全身毛むくじゃらは俺だっていやだしな。


 俺がサル人間になったらきっと同じ反応をするだろう。


「まあ、ミシェルン。それでもかなり強くなったはずだから。どんまいだ……。うん? サンバは何をやっているんだ?」


「ええ、船長さんが散らかした空薬莢の回収ですよ!」


「おいおい、いくらお掃除ロボットだからってゲームで掃除しなくてもいいんだぜ?」


「ちっちっち。船長さんは分かってないですねー。

 空薬莢は回収しておくと後で廃品業者に売却することができるんですよ。

 ローグの交渉術のスキルによって買取価格が若干上昇するんです。それにスキルレベルもアップしますのでウィンウィンなのです」


 なるほど、そういうのもあるのね。

 ローグは戦闘は弱いけどそういった成長をするんだな。割とやり込み要素がありそうだ。

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