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「さっきも言ったけど、お父さんに憧れて冒険者になったの。でもこのとおりドジで、チームを組んだ仲間にも迷惑をかけて……向いてないとかやんわり引退した方がいいって言われてたけど、それでも頑張れば私だって少しはお父さんみたいな冒険者に近づけるんだって……」
壁に背をつけて膝を抱えて二人は並んで座る。
思い出すようにぽつぽつと語るアイリの言葉を、シルシエは黙って、ときに頷きながら聞く。
「ダンジョンを一人で行くのって難しいじゃない? だからチームを組むんだけど、私がドジっちゃって迷惑かけてるうちにだれも相手してくれなくなって。マーレのダンジョンって地下八階あって、丁度半分の四階から難易度が高くなって、突破したら一人前だって言われてるの」
アイリは涙で潤んだ瞳でシルシエを見つめる。
「一人で突破してやろうって、できたら一人前だって皆に認めてもらおうって思って……でもさ、失敗して、死んでいた……しかもそれすら気づかずに永遠と同じことしてたなんてドジとかそんなレベルじゃないよね」
笑いながら涙を流すアイリに、シルシエは優しく微笑む。
「亡霊になっても進もうとする、それはアイリさんの気持ちが本気だったからだと思います。それを僕が笑うことはできません。ただ、生きているときに意地にならず、ダンジョンに別の形で携わるか、アイリさんと苦楽を共にできる仲間を探した方がよかったかなとは思いますけど」
「シルシエくんは優しいね。大抵の人はダンジョンに関わるなとか、結構きつめに言うんだけど……でも、そっか。別の方法でダンジョンに関わるなんて考えもしなかったなぁ。頭硬いな私」
そう言って笑顔を見せるがすぐに暗い表情に変わる。
「ねえ、私これからどうなるのかな。今はシルシエくんがこうして話してくれてるけど、ずっとここにいてくれるわけはないよね」
膝を抱え下を向いたままアイリが呟くと、シルシエが右目の眼帯を取る。眼帯の下にあった金色の瞳に映るアイリが、じっと見つめる。
「その瞳……なんていうか凄く安心するって言えばいいのかな。見てると落ち着く」
シルシエの右目をアイリはうっとりと見つめる。
「さきほどアイリさんが言っていた、これからどうなるかの話ですが、この世に未練がなくなって消える……つまりは天に昇るか、生命の循環に組み込まれダンジョンの中で命を巡らせるかになるかと思います」
「なんだか難しい話だね。そんなことが分かるってシルシエくんって本当に何者なの?」
「実のところ、自分でも正確には分かってません。でも、アイリさんをここから解放することはできます」
そう言って微笑むシルシエの右の瞳に双葉のシルエットが開く。
「僕と取引をしませんか?」
「取引?」
「はい、アイリさんの最後の願いを僕が叶えます。その代わり、アイリさんの魂を少し分けて欲しいんです」
「私の魂を分けるって……具体的にどうするの?」
シルシエの提案にアイリが警戒した様子で尋ねる。
「一部と言っても、髪の毛でいえば五センチ程度です。アイリさんが僕と取引すれば、僕がやるので心配しなくても大丈夫です。それに、先にアイリさんの願いを叶えるので、気に食わなければあげなくてもいいですよ」
「そんなのでいいの? そのやり方でシルシエくんはいいの? 損しない?」
「無理矢理取るのは嫌ですから。それに貰うにしても気持ちよく貰いたいので、先に願いを叶えることにしています」
そう言って笑顔を見せるシルシエに、アイリもつられて顔を緩める。
「私の願いを叶えるって、なんでもいいの?」
「んーまあ、限界はあるので、いくつか言ってもらってその中から選ぶ感じにはなりますけど」
「じゃあ、第一希望は……」
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