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 多くの人で賑わう冒険者ギルドの中に、背丈の低い金色の髪の頭が通り抜けていくたびに、皆が振り返ってしまう。


 屈強な男女が多い中に幼いなりの子供、まして右目に眼帯しているとなれば余計に人目を引いてしまう。


「おいボウズ、見ない顔だが流れか?」


「はい、二日ほど前にこの町に到着しました。シルシエって言います」


 笑顔で答えるシルシエに、声をかけた男性も思わず笑みを浮かべてしまう。


「ここグスターブはな、鉱石の町だ。ダンジョンであるミヌレでは良質な鉱石が採れる。ボウズもそれ目当てか?」


「鉱石……それも魅力的ですけど、僕にはピッケルを振るう力がないんで。それに僕は探索者なので、人探しや落とし物の依頼の方がないかなって探しに来ました」


 シルシエが頭を掻きながら恥ずかしそうに言う。


「ボウズは探索者なのか。人探しねぇ……ミヌレは横型ダンジョンでよ。ここいらの町から隣の山二つの下まで伸びているんだ。広くはあるが、罠も少なくて、隅々まで調べられていて探索もし易い。人探しってのはあんまり聞かないな。ときどき金の入った袋を落としたとかならあるけどよ」


 顎に手を置いてしばし思考したシルシエだが、すぐに笑顔を見せる。


「ありがとうございます。僕にできそうな仕事を探してみます」


「おう、いいってことよ……いやちょっと待てボウズ」


 笑顔で応えたかと思ったら、男性から呼び止められシルシエは慌てて止まる。

 急に止まったため、背負った大きなリュックに押され、手をパタパタさせてバランスを取るシルシエを見て男性は笑いながら謝る。


「悪いな、ちょっと思い出してよ。つい数日前なんだが、ここの領主であるグスターブ公の依頼でな、息子を探してほしいってのがあるんだ」


 そこまで話した男性が、小声になったことになにかを察したシルシエが近づき、耳を近づける。


「あんまり大きな声じゃ言えねえが、使用人の女と駆け落ちって噂だ……あ、ボウズ駆け落ちって分かるか?」


 変なところで気を使ってくれる男性に、笑顔で頷いたシルシエが質問する。


「駆け落ちでダンジョンへ逃げたんですか?」


「いや、山を越えて別の町だか、国だかに行ったんだろうが、一応名目上な。ダンジョン及びその周辺の捜索ってことにしておかないと、駆け落ちで……っと。おい、ボウズ離れろ」


 呼び止めたり、離れろと言ったり忙しない男性が押すので、シルシエは仕方なく離れる。


 下を向く男性から、建物の扉が閉まった音の方をシルシエが見ると、神経質そうな男性が左右にフルアーマーの兵を従え歩いてくる。そのままギルドのカウンターで立ち止まり、指で眉間に寄ったシワに触れ受け付けの男性に声をかける。


「こちらに出した依頼はどうなった?」


「こ、これはグスターブ様」


「挨拶はいい。質問に答えろ。依頼はどうなった?」


 受け付けの男性に高圧的に話す、グスターブと呼ばれた男は鋭い目つきで睨む。


「数名ほど、冒険者並びに探索者が向かいましたが、ダンジョン内もその周辺でも、その……」


 話ている途中で、グスターブがテーブルを叩いたことで、受け付けの男性は驚いて跳ねる。そんな姿にわざとらしいため息をついたグスターブは、周囲をゆっくりと見回しもう一度ため息をつく。


「これだけの人数がいて、人一人見つけられないとは、ここには無能しかいないのか」


 グスターブがバカにしたように笑い、静まり返る中、小さな手が上がる。


「はいっ! その依頼、僕が受けます」


 手を上げたシルシエに、鋭い目つきだったグスターブの目が更に鋭くなって向けられる。


「お前のような子供が、私の依頼を受けるだと?」


「はい、受けます」


 領主であるグスターブに絡むシルシエの、その隣で、俺を巻き込まないでくれよと目をまん丸にして下を向く男性の姿があった。

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