第6話 プライド高い男が年下の女に言われたくない言葉第2位「無能な働き者」
「ていうか、そろそろ本題に戻ってくれよ、
「はぁ……そんなんだから京子さんに早漏って言われるんですよ」
「え? その話もっと詳し」
「じゃあ本題に入りますけどね、とりあえず、体調の問題ではなさそうですよ」
「そ、そっか……」
よかった。こればかりは心から安堵した。
京子といえば大学休んだのも(軽症だった)新型コロナ感染時のみというくらい病気とは縁遠いイメージだったし、見た目や立ち居振る舞いもまさに健康体って感じだけど、最近寝不足気味な日がちょくちょくあるのだけが少し心配だったんだよな……。
病気説なんて絶対ありえないと思いながらも、万が一にもそれだけはやめてくれと祈っていたのが正直なところだ。
うん、何か忘れてる気がするけど、とにかくホッとした。
「一応、面接という形で、母からも京子さんにいろいろ質問したんですけど、まぁ、そこで健康面に関しても聞かせてもらったんです。長期で働いてもらうのが採用の条件って流れで」
「なるほど」
「まぁ、なかなかのプライバシー侵害ではありますけど、そこら辺のおばさんが娘のためを思ってやってることですからね。実際、母は素でやってますし。当たり前ですが、わたしの指示ではありませんよ。この作戦はわたしたち二人だけの秘密ですからね、せーんぱい♪」
「で、京子は健康面に問題はないと答えた、と。確かに、個人契約とはいえ、仕事の面接で、あの真摯で生真面目な京子がそんな嘘をつくとは思えないな。何か病気を抱えているとしても、『こんな持病はありますが、これこれこういう対策もしていますし、この仕事に支障をきたすことはありません』みたいに答えるはずだと思う」
「ってか、次の授業の際に健康診断の結果票持ってくるって言い出しましたからね。それは母が遠慮しましたけど。態度から見てもとても嘘をついているようには思えませんでしたよ、せーんぱい」
とりあえず、最悪の結果だけはないと見ていいのだろう。正直、これだけでも充分な成果だ。
ちゃらんぽらんしているようで、この子はやっぱり有能なのだろう。
「あと妊娠もしてなそうです、せんぱい」
当たり前だろうが。俺が避妊もできないクソ野郎だと思ってやがんのか、こいつ。
「でもー、酔った勢いでとかー」
「確かに家系的にも酔ったら止まらなくなっちまう可能性はあるかもしれんが、それを自覚して俺は一切酒を飲まないことにしてる」
「そーですか参考になります。まぁでも、丈太さん以外の、って可能性もあったわけですからね♪ 一応です♪」
そんな可能性は端から除外しろって言ってんだろーが、この無能がよぉ! そういう発想聞かされるだけで俺の脳は確実にダメージを受けてんだよぉ! 俺に何の恨みがあんだ、テメェは!
「ま、そんな感じで、潰せる可能性から着実に潰していくのも、答えに近づくプロセスの一つなわけですよ」
「んだよ、じゃあ結局、数多ある可能性を少しだけ絞り込みましたってだけの話じゃねーか。真相に迫っただとか、大げさなこと言いやがって」
俺の悪態に、保科さんはムッとした顔をする。いつも飄々としていて俺を舐め腐っている彼女にしては、珍しい感情の発露だ。
「いや、もう最終的な答えも見えてますし。ただ、まだ決定的な証拠をつかんでるわけじゃないんで。それはこれからなんで」
「じゃあ、それをさっさと言えよ。別に仮定だろうが予想だろうが希望的観測だろうが構わんから。問題Xに関連しそうな情報は全部共有して一緒に検討していくってのが、俺らの協力関係だろ」
「……だって、丈太さん、無能な働き者っぽいから……」
「おい、プライド高い男が年下の女に言われたくない言葉第2位(俺調べ)をむやみやたらに振り回すんじゃない」
ちなみに第1位は「包茎」。
「まぁ……言わないわけにもいかないか……」
保科さんは長いため息をついて、
「わかりました、報告します。ただ、あくまでも疑惑の段階ですからね。これが答えだと確定するまでは、余計な行動起こさないでくださいよ? わたしなりの筋道があるんですから、あなたが余計な探りを入れて、彼女の警戒心を強めるようなことは絶対に避けてください。マジで何もするな。約束できますか?」
「くそぉ、第3位の『マジで何もするな』まで持ち出しやがって……ああ、いいよ、わかったからさっさと言え」
くそが。どうせ大した推理でもないくせに、大仰に焦らしやがって。ギャルがシリアスな顔すんな、場面で生きてろ、ギャルは。
「わかりました。問題X、つまり、京子さんが今抱えている大きな問題――それは……」
決めた。間違ってたら思いっきりバカにしてやる。「ああ、いいよいいよ、保科さんは保科さんなりに頑張ってくれたんだもんな。うん、いいいい。後は全部こっちでやるから」って言ってめちゃデカため息ついてやるんだ。
「ストーカー被害、かもです」
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