第三章 魔剣ラディスラヴァの力

第17話 がっかりな魔剣?・1


 降ろした荷を固め、マツに防護の魔術を掛けてもらう。

 続いて、土の魔術で2尺ほどの高さの細長い台を作る。長椅子代わりだ。


「では、クレールさん。持って下さい」


「はい・・・」


 緊張で細かく震える手で、クレールが魔剣を受け取る。


「真ん中辺りへ、お願いします。

 私が開始の合図をしますから、それまでは魔術を使わないで下さい。

 マツさん、クレールさんに防護の魔術を」


「はい」


 2人が更地の真ん中に歩いて行き、足を止める。

 マツがクレールに防護の魔術をかける。

 マツが戻って来て、長椅子に座った。


「では、始めましょうか。

 何か見逃すといけないので、皆、しっかり見てて下さい」


「はい」


「クレールさーん! 水を出してー!」


 ぽん、と水球が浮かぶ。

 いつも通り、小さな水球。


「たくさん出してー!」


 ぽんぽんぽん、といくつも水球が浮かぶ。

 全く変化がないように見える。


「マツさん。何か変化ありますかね?」


「何もないですね」


「クレールさーん! 変わったことありますかー?」


「ないでーす!」


 本当に、ただ魔力が減らない、というだけなのだろうか。

 強力な攻撃魔術を、好きなだけ使える。

 死霊術で、強力な死霊を出しっぱなしにも出来る。

 確かに危険と言えば危険だが、それだけか?


「ううむ・・・マツさん」


「はい」


「魔術というものは、魔力だけでなく集中力も必要とされますよね。

 大きな魔術なら、長い集中も必要とされます。

 ということは、魔力が減らないだけでは、さほどの脅威ではない。

 この私の考え、合ってますか」


「その通りです」


 マサヒデ達、魔術を使わない者にも魔力が感じられる、すごい魔力。

 だが、それだけではないはずだ。

 雰囲気が尋常ではない。

 きっと、カゲミツの秘蔵の逸品のような、怖ろしい力があるはずだ。

 特定の種類の魔術だろうか。


「土の魔術を使ってみて下さーい!」


 ぽん、と石が浮かぶ。

 ぽこん、と穴が空く。

 どん、と壁が出来る。

 見ていた所、何も変化はない。


「何かありましたかー?」


「ないですー!」


「色々使ってみて下さーい!」


 火が浮かぶ。

 小さな雷が木に飛ぶ。

 風が巻き、クレールが宙を飛ぶ。

 どれも、普通の魔術と同じだ。


「何か変化はありましたかー?」


「魔力が減らないだけですー!」


「ううむ・・・」


 特定の種類の魔術ではない。

 では、何がきっかけで力が開放されるのか。

 やはり、呪文のような物が必要なのだろうか?

 それとも、魔力の量か?


「大きな水球を作ってみて下さーい! 思いっ切り!」


 ぐぐっ、とクレールが魔剣を握り、目を瞑って集中する。


(ん?)


 一瞬、魔剣にちらりと何かが見えた。

 ぐいぐいと水球が大きくなる。


「消して下さーい!」


 ふ、と水球が消える。


「マツさん、今の、見えましたか?」


「何かありましたか?」


「シズクさんは?」


「んん? 何が? 何かあった?」


「カオルさんは?」


「いえ・・・何も」


「ラディさんは気付きましたか?」


「いえ」


「アルマダさんは?」


「む・・・」


「見えましたか?」


「はっきりとは。しかし、魔剣の先に何かが見えたような気がします」


「やはり・・・私にも見えました」


 皆、魔術の方に目が行って、魔剣の変化に気付かなかったのだ。


「クレールさーん! こっちに来て下さーい!」


「はーい!」


 たったった、とクレールが走ってくる。


「クレールさん、今、魔剣に何かが見えました。小さい何か。

 あなたは、何か変化に気付きましたか?」


「あ・・・ごめんなさい、集中して、目を瞑ってて・・・」


「皆さん、クレールさんの横に。魔術でなく、魔剣を見てて下さい」


 皆が立ち上がり、クレールの横に並ぶ。


「クレールさん、さっきみたいに大きな水を出してみて下さい。

 思い切り集中して、思い切り大きな物を。

 皆が見てて、集中しづらいかもしれませんが」


「はい」


 ぐっと魔剣を握りしめ、クレールが集中する。

 目を瞑って、空気が張り裂けそうなほど・・・

 ぐんぐんと大きくなる水球。


 その時、魔剣の先に、小さな棒が浮かび上がる。


「あ!」


 シズクが大きな声を上げ、


「ひゃあ!」


 シズクの声にクレールが驚き、ばしゃ! と大きな水球が落ち、水しぶきが飛ぶ。

 ばらばらばら、と飛んできた水しぶきが当たり、皆がずぶ濡れになる。


「・・・」


 シズク以外の全員がずぶ濡れになりながら、じっと魔剣を見ている。

 今見えたのは、クレールの杖の先・・・


「クレールさん、ちょっと杖を見せてもらえませんか」


「は、はい、どうぞ」


 腰に差した小さな杖。

 差し出された杖を受け取り、よく見る。

 間違いない。今見えたのは、この杖だ。


「皆さん、見ましたね」


「確かに、これです」


「間違いありません」


「杖でした」


「これだね。間違いないよ」


「・・・」


 この魔剣の力は、集中力で出すものだ。

 そして・・・


「クレールさん、魔剣を」


「はい」


 マサヒデは魔剣を受け取り、集中する。


「違うのか・・・」


 何も変化がない。

 眉を寄せるマサヒデに、顎に手を当てたアルマダが、


「マサヒデさん・・・クレールさんは杖のように使っていましたよね。

 刀の形を思い浮かべて、集中してみて下さい」


 そう言って、じっと魔剣を見つめる。


「・・・」


 愛刀の形。

 目を瞑って、静かに集中する。

 剣先から、柄頭まで・・・


「は!?」「きゃ!」「あー!」「うわあ!」「!」


 皆が驚く中、アルマダだけが、やはり、と頷く。


「・・・」


 集中したまま、マサヒデが目を開ける。

 魔剣から、黒くもやを出した、透けた刀が伸びている。

 見た瞬間、す、と刀は消え、小さなナイフからもやが垂れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る