第10話:イバレル・ポイズナー
「なぁ…。やっぱり大丈夫かな。」
林間学校の行きのバスの中、カルムはマルケルに話しかけていた。
「何がだ?」
「彼のことだよ!イバレル!」
「イバレルがどうした?」
「こいつ全然話さないし、僕たちの輪の中にも入ろうとしないぞ。」
「そんなこと考えても仕方ないよ~。寝たいだけかもしれないし!それより、カルム君!引いて!」
絶賛マルケル達はババ抜き中。わいわい盛り上がっていたのだが、カルムがそこに水を差した。
「仲間になってくれそうにもないけどなぁ…。」
カルムは不服そうな顔を浮かべながら、エマのトランプを1枚引き抜く。
「あ、お前ババ引いたろ?」
「は?なんで分かるんだよ!」
「エマが嬉しそうな顔してたから。」
「…エマのせいか。」
そんなことをしながらマルケル達は移動時間を過ごした。
✣ ✣ ✣
「間もなく、"アノン雪原"に到着致します。」
「もうそんな時間か。」
アノン雪原。そこは、一年中雪が降っている地域で、夏だろうと冬だろうと関係なく氷点下を記録する。バスガイドの案内でトランプを急いでしまい、ダウンジャケットを羽織る。
「うわぁ。カルム君のコートもっこもこぉ!」
「まぁ、ペルシネ(有名ブランド)の高級コートだからな。」
カルムは鼻高々に語る。金持ちが。そうマルケルは思った。しばらくしてバスが止まり、扉が開いた。
「うぅわ!さっむ!」
強烈な寒さの風がバスの中へと入ってくる。手袋もつけてバスの外へと出ると、そこには白銀の世界が広がっており、コテージが何個か建てられていた。
「きれー!」
「流石、アノン雪原だな。」
「皆さん!宿の前に班ごとに並んでください!左から1班、2班、3班のようにお願いしますね!」
マルケルの班は9班。最後の班だ。イバレルを勧誘していたことによって時間がかかり、最後に先生に伝えに言ったため、遅くなった。1番右の列にマルケルを先頭にしてエマ、カルム、イバレルの順番に並ぶ。そんな中マルケルは気になっていることがあった。
「ってか他の寮の奴らはどこにいるんだ?」
「あー。トルヴァ寮とかの人達のこと?」
「そうそう。」
「その人達は、別の所に行ってるよ。だから多分会えないかな。」
「まじかぁ。」
学園でも他の寮の人達と関わる機会がないので、この機会に色々な人達(主に強い人達)と関わろうと思ったのだが、それは叶わなそうだ。
「これから班長にマップを配ります。」
フェルマから、マップを受けとる。そのマップには、1~9の数字がふられている。位置関係的に、その数字がふられている場所にはコテージがあるようだ。
「これから皆さんには、自分達が2泊3日の間お世話になるコテージへと向かって貰います。マップにふられている番号は、貴方達の班の番号と対応しています。1班は1とふられているところのコテージへ。9班は9とふられているところのコテージへと向かってください。現在の時刻は18:00。20:00までは自由行動です。20:00ちょうどにもう一度ここに集合してください。お風呂に入る時間は自由です。自分達のコテージのお風呂を使ってください。20:00からは晩御飯の説明をします。」
…え?マルケルはそう思った。流石に男子と女子が同じコテージの中で寝るなんて有り得ないだろう。ましてや、お風呂が男女共同だなんて…。どうやらこの世界では男女の間柄が通常世界よりも軽視されているようだ。
「それでは、解散!」
フェルマのその掛け声と共に生徒が散らばっていく。
「じゃぁ、行くとするか。」
「うん!」
「…デュフ。」
「あ?」
イバレルが静かに(気持ち悪く)笑った。
「どうした?」
「…いや…。別に…。」
「あぁ…そう。」
マルケルは、9と書かれているコテージへと向かった。
「ここか。」
マルケルは扉をおもいっきり開ける。
「うわぁ!」
寒かった外とは裏腹に、暖かい世界がそこには広がっていた。ソファーやテレビ。その傍にある暖炉。フカフカそうなベッド。幸せだ。
暖炉の傍に行くとパチパチと言った薪特有の音。癒される。
「じゃぁ、ベッド決めよ!どこに寝るか!」
ベッドは、2つがくっついて、1組のようになっており、それが2組。合計4つだ。さらに隣り合わせのベッドは、とても距離が近い。通常の世界じゃぁこの状況、女子が一方的に襲われる。それに仮に隣りに女子がいたら、後ろから抱きついたりしちゃったりして…。そう思いながらエマを見ると、エマは純粋にこの状況を楽しんでいるようで申し訳なくなった。どうやらやはりこの世界ではそういった懸念はないらしい。
「じゃぁ俺はここで。」
マルケルは1番端っこのベッドを選んだ。
「じゃぁ私その隣!」
その流れでカルムが
「じゃぁ…。」
と言いかけると
「僕がエマさんの隣で!!」
とイバレルが勢い良く言った。
「あ?」
カルムは流れを邪魔されたようで少し苛立っているようにも見えた。
「僕がここで寝るんで!はい!できればマルケルさんのところの方が良かったですけど…。」
(もしかしてこいつ…。エマのこと好きなのか?)
そう考えるとさっきの静かな(気持ち悪い)笑いも何となく分かる。今思えばバスの中でもちらちらとイバレルはエマのことを見ていた気がする。そんなことを考えている間にカルムは少し、溜め息をつきながらも
「じゃぁ、僕はこの端っこで良いよ。」
と言った。
「よし、決まり!じゃぁ、私はお風呂入ってこようかなぁ!」
「了解。」
エマがお風呂に入る用意を始める。その様子を見てイバレルはまた静かに(気持ち悪く)笑った。こいつ絶対に良くないことを想像してるなとマルケルは思った。
(もしや、変態か!?)
どうやらカルムもマルケルと同じくイバレル変態説を考えているらしく、イバレルを睨むと共にマルケルにアイコンタクトを送ってきた。マルケルは静かに頷いて
「カルム、外少し歩こうぜ。」
とカルムに提案し
「そうだな。」
とカルムも同意した。そして外に出るとカルムが開口一番
「イバレルは変態だ!」
と言った。
「馬鹿!まだ聞こえるかもしれない。」
「…すまない。だけれど、彼とエマを一緒にしては行けない。絶対に。」
「間違いない。何をしでかすか分からない。」
このままだとさっきマルケルが妄想していた出来事をイバレルがエマにしかねない。やはり、男女の部屋は別々にするべきだと改めて思う。
「取り敢えず、部屋に戻ろう。そしてイバレルを見張っておこう。それと…。」
「それと?」
「寝る時だが、エマはお前が守れ。俺はイバレルを見張っておくから。」
「…お、おう。」
エマを守る。その響きが何故か心地よかった。
「よし、戻るぞ。」
「うん。」
そう言ってカルムが扉を開けると、脱衣所の近くにイバレルがいた。
「「お前、なにやってんだぁ!!」」
✣ ✣ ✣
「お風呂、気持ち良かったぁ。…ん?」
マルケルとカルムがイバレルを睨み付け、イバレルがその中央で小刻みに震えながら正座している様子にエマは戸惑った。
「どうしたの?」
「…エマ。」
「ん?」
「さっきベッドの配置決めたけど、変えることにした。」
「え?そうなの?どんな風に?」
「エマ、俺、カルム、イバレルの順番だ。」
「ふーん。まぁ、良いけど。どうして?」
「なぁ、イバレル。君が何をしたのか教えてあげたらどうだい?」
「い、言えませんよぉおぉ!」
イバレルは今にも泣きそうだ。
「え?何があったの?イバレル君がどうかした?」
「…。」
イバレルが必死にマルケルとカルムを見つめる。
「次変なことしたら承知しないからな。」
「エマ、一旦忘れてやってくれ。とにかく寝る場所が変わった。」
「…う、うーん。まぁ、分かった…。」
何があったのか分からなず、困惑するエマとイバレルを睨み付けるマルケルとカルム。その2人には、絶対にエマを守らなければならないと言う使命感が生まれ、謎の絆が2人の間で育まれていた。
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