第3話 遠足の麦茶
今の子どもは 麦茶に 砂糖を入れないらしい。
70年も生きてきて おどろくことがあるもんだ。
そもそも麦茶を もっていかないらしい。
水筒の中身は スポーツ飲料と相場が決まっているんだとさ。
熱中症予防だそうだ。
私が子どものころ 遠足の飲み物といえば麦茶だった。
水道から汲んだ 真水のやつもいた。時代だと思う。
水のときは 友達には だまっていた。
遠足のあるたび 先生に
麦茶に砂糖を入れてもいいかと 聞く奴がいて
こっちが水のときは 毎回聞くなんて憎らしい奴だと思ったもんさ。
私らの頃の遠足は 文字どおりの「遠足」だ。
バスに乗って 遊園地や博物館に行くわけでなく
ただただ 遠くへと ひたすら足で歩く。
とにかく歩く ぞろぞろ歩く。
疲れ切ったところで 水飲み休憩。
息を整えながら 水を飲んでいたら
あの憎らしい奴が 近づいてきた。
麦茶をくれた。
あまい 麦茶
あまい あまい 麦茶
「生きかえったあ」
おもわず 叫んだ
あまい麦茶の憎たらしい アイツは
去年 空の上へと 遠逝したそうだ。
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