それなら甘い飲み物を

優木 秋

第1話 ロイヤルミルクティー

 鴨川沿いを一人歩く。

 ロイヤルミルクティーを 自販機で買う。 

 高円寺から京都に移り住み 10か月。

 京都の節分は 賑やかだった。

 私が知らないだけで 東京の節分も賑やかなのかもしれないが。


 ほんのひと月前 初詣の頃より 水面の光が明るい気がする。

 手にもっているロイヤルミルクティーを 一口ふくむ。


  ミルクの風味して

    つぎに紅茶の香りが抜け

        さいごに残る甘み


 私は何時いつからこれを 好きになったんだろう。

 初めて飲んだ時のことは 今も鮮明に覚えている。 

 高校時代。保健室の先生。

 背の高い 髪の長い 白衣の先生。


 PMSで何も食べられないわたしに

「ロイヤルミルクティーとミルクティーの違いって知ってる?」

 内緒で淹れてくれた 温かい飲み物

 

 いろんなことを教えてくれた先生。 

 毎日 保健室に通うようになった。

 先生の部屋にも遊びに行くようになった。

 初めてのメイク。初めてのマニュキア。初めてのピアス。

 ぜんぶ彼女が教えてくれた。

 気が付くとテーブルの上には

 いつも ロイヤルミルクティーがあった。


 しばらくして 彼女は学校を去った。

 「生徒と交際している」と噂が立って。

 

 彼女が好きだったんだ。


 いなくなって初めて気づいた。 

 あまみの後に来る 

 ロイヤルミルクティーの苦みと一緒に 


 今日気づいた。

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