勇者祭 6 仲間

牧野三河

第一章 新しい仲間

第1話 鬼娘への懸念


「はっ!」


 気付いて起きると、そこは見慣れない部屋。

 ばっ! と周りを見渡すと、枕元に大小が立てかけてある。

 大小に跳びついて、警戒して見渡す・・・


(ここは・・・)


 そっと戸を開けると、ここ数日で見慣れた廊下。

 どうやら、冒険者ギルドの一室のようだ。


 息をついて安心したが、昨晩の事が途中から思い出せない。

 おそらく、自分は随分と酒を飲まされて、酔い潰れてここに運ばれたのだ。


 マサヒデがそこまで思い当たると、急に頭痛がしてきた。

 これが二日酔いというものか。

 胸もむかむかする。


 静かに戸を閉めて、改めて部屋を見渡す。

 大小が置いてあった逆の枕元には、水差しとコップが置いてある。

 部屋の隅に、マサヒデの服が畳んで置いてあり、荷物も置いてある。


 マサヒデは服を着替え、水差しを取った。

 ひどい頭痛に、吐き気。


(これが二日酔いか。もう酒は呑みたくないな)


 ゆっくり水を飲んだ後、服を着替え、寝巻きをきれいに畳んでベッドの上に置いた。


 とんとん。

 控えめな、ノックの音。


「はい」


「トミヤス様。おはようございます」


 ドアが開き、ギルドのメイドが頭を下げている。


「おはようございます。私、昨晩は・・・」


 メイドは頭を上げ、小さく笑う。


「ひどい顔色ですね。トミヤス様、昨晩は随分と呑まされておりましたね。酔い潰れてしまって、私共がこちらへ」


「・・・やっぱりそうだったんですか・・・お恥ずかしい所をお見せしました」


「朝食はどうなさいますか」


「とても食べられる状態ではありません。これが二日酔いというものなんですね」


 メイドが口に手を当てて笑う。


「ふふ、トミヤス様にも弱点があったのですね。では、粥などお持ち致します。少しは食べておきませんと」


「そうですね。無理にでも入れておかないと・・・」


「お食事が済みましたら、小会議室へご案内致します。ハワード様がお待ちです」


「アルマダさんが? 何の用でしょうか」


「私は聞いておりません。それでは」


 ドアを静かに閉めて、メイドは去って行った。

 マサヒデは水差しを取って、もう一杯、ゆっくりと水を飲む。


 窓を開けると、雀が飛んでいき、朝の町が見える。ここは2階だ。

 人通りは多く、明るい。日の高さから、9時頃であろうと分かる。


(俺は勝った)


 300人近くの人数を倒し、勝ちを収めた。

 1敗。あの凄腕の忍には、真剣なら負けてしまっていたが、試合には勝てた。

 もし次に立ち会うことが出来たら、今度は勝ちたい。いや、勝つ。


 最終日の午後。

 女の忍と戦った時。身が打ち震えた。

 そういえば・・・


 とんとん。


「朝食をお持ち致しました」


「入って下さい」


「失礼致します」


 ドアが開いて、メイドが盆に乗せた粥を持ってきた。

 静かにテーブルに置かれる。


「先程も申しましたが、食べ終わりましたら、小会議室へ。私は外に控えておりますので、ご用がありましたら、お呼び下さい」


 ぺこり、と頭を下げ、メイドは出て行った。


 粥の置かれたテーブルにつくが、全く食欲が湧かない。

 マサヒデは少しづつ粥を腹に入れた。


 何とか食べ終わって、水を飲む。

 ふう、と息をついた。

 こんなに食事がつらいとは・・・もう酒は控えよう。


 立ち上がり、ドアを開けた。


「お待たせしました」


「それでは、ご案内致します」



----------



 先を歩くメイドに着いていき、ぐるりと廊下を回って、会議室の隣。

 『小会議室』と書かれたドアがある。


「どうぞ」


 ドアを開けると、アルマダが座っている。

 酷い顔色のマサヒデを見て、苦笑する。


「おはようございます。随分と呑まされたようですね」


「ええ」


「ま、お座り下さい。まだ終わっていませんから、今後の話を進めましょう」


「はい」


「まず人材についてです。数日中に返事がくるでしょう」


「ええと、鬼の女性。銀髪の魔術師の・・・」


(しまった・・・忘れていた)


 マサヒデの言葉のせいで、まるで結婚の誘いのような言葉で誘ってしまった。

 どうしよう・・・


「・・・あと、最後の女の忍者の方ですか」


 アルマダがにやりと笑う。


「ふふ。全員、女性になりましたね。さすがマサヒデさんと言った所ですか。あなた、その気がなくても、自然に女性を口説いてますからね」


「やめて下さい・・・」


「まあ、マサヒデさんが戦った中で、特に光っていた方は、その3人ですね。治癒師については、リー達が素晴らしい方を選抜してくれました。旅の仲間にもなってくれるそうです。後ほど、紹介しましょう」


「しかし、4人とも参加するとなると、1人余ってしまいますね」


「そこについては問題ありません」


「と言いますと」


「あの女忍者の方。『家臣にしてほしい』と言ってましたね。彼女は祭の参加者ではなく、雑用係として連れて行けば良い」


「なるほど、戦いには参加せず、荷物の管理とかをしてもらえば、と」


「そうです。ただ、何があっても絶対に手を出さないよう、強く言い含めておかないといけませんね。里を出て主を探すほどの方です。マサヒデさんが危険となれば、失格になってしまうと分かっていても、飛びかかってしまうかもしれません」


「ううむ・・・」


「彼女はまず来ると見て間違いないでしょう。参加者の枠が余った時に、パーティーに入れれば良い」


「ふむ」


「そうすると、あの鬼の方。銀髪の魔術師の方」


 アルマダの目が厳しくなる。


「鬼の方は分かりませんが・・・問題はあの魔術師の方です」


「う・・・」


「もし『結婚します』と来たら、あなた、どうなさいます」


 マサヒデはしょんぼりしてしまった。


「・・・どうしましょうか・・・」


「『ただ祭のパーティーメンバーと誘っただけです』と言ったら、彼女は悲しむでしょうね」


「・・・」


「マツ様はどうします。あれだけ怒っていたんですよ」


 マサヒデは顔を上げ、


「あ、マツさんは大丈夫です」


「ほう」


「もし、彼女が嫁に来たとしても、許すって」


「許す・・・ですか。あなたは許されても、彼女はどうなりますかね」


「大丈夫です。私が正妻であれば良い、と」


「つまり、第二夫人であれば良い、と?」


「はい」


「・・・分かりました。マツ様の方はそれで良いとしましょう。しかし、私が見た所、彼女も十中八九来ますよ。パーティーメンバーではなく、嫁として」


 マサヒデは、また、しょんぼりと肩を落とした。


「・・・」


「追い返しますか? あなたから誘っておいて。それとも『妻となってほしい、という誘いではありません。ただ祭のパーティーの誘いです。あなたの思い込みです』そう言えば、大人しく結婚を諦めて、パーティーメンバーになってくれますかね」


「・・・それで、許されるでしょうか・・・」


「あなたは人の気持ちを踏みにじる気ですか? たしかに、あなたにその気はなかった。しかし、あれは誰が聞いても口説き文句でしたよ。その気にさせたのなら、そんな事は一男性として、許されるものではない」


「ですよね・・・」


「マツ様から許しが出たのなら、もう腹を決めて下さい。彼女があなたとの結婚を望んできたら、迎えて下さい。彼女が祭に参加するかどうかは、その後です」


「はい・・・」


「鬼の女性については不明ですが、彼女もおそらく来ます。ただし、パーティーに入れるとなると、危険を伴います。『負けたら種族の婿になってもらう』と、言ってましたね。寝込みを襲われて『お前の負けだ。さあ種族の種馬に』なんてことになるかもしれませんよ」


「確かに。そうすると、彼女を加えると、身内に敵を抱えて旅するようなことになりますね」


「彼女には参加条件として、パーティーのメンバーに一切手を出さないよう、条件を出します。それが飲めないと言うなら、彼女は諦めます」


「うーむ」


「良い人材でしたが・・・味方にするなら、これだけは絶対飲んでもらいませんと」


「そうですね・・・」


「他にも、彼女には危険があります」


「と言いますと」


「彼女がメンバーを諦めた所で、これも危険です。下手をすれば、旅の間中・・・いや、旅が終わっても、ずっと付け狙われることにもなりかねません。あの強さです。必ず被害が、いや、おそらく死人も出る。これは絶対に避けなければ。上手くあしらわないといけませんよ。どちらにしても、あの方にずっと付け狙われるなんてことは避けなければ」


「そうなったら・・・もう、彼女を斬るしか・・・」


「そうです」


 はっ、とマサヒデが顔を上げた。


「あ、そうだ! 彼女、魔族でしたね!」


「ええ。何かいい案でも」


「マツさんに仲介してもらうのはどうでしょうか」


「ふむ」


「必ず、私と尋常な一対一の勝負で立ち会うこと、としてもらえば、私は問題ありません」


「悪くない案です。しかし、マツ様は身分を隠しておられますし・・・交渉の席には同席してもらいますが、どうしても、と言う時の切り札にしましょう。なるべく、マツ様の事は知られたくはない。それと、マツ様の意見も聞いてきましょう。身分を笠に、強引に条件を飲ませるようなことは、マツ様もしたくないと思います」


「そうですね」


「では、鬼の女性に関しては、ここまでにしましょう。マツ様の意見を確認してから、考えます。次に、あの忍者の方について、少し懸念があります」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る