番外編7 災いを呼ぶ子




 マリーとエリー、そして節子が寝室へ消えていった後、ジョンと剛の二人が居間に残った。二人は少し気まずいながらも話を続けた。

「まりをもらってくれて助かったよ。まりは嫁にはいかないと言いきっていたから、心配していたんだ」

 剛はジョンを見据えながら言う。

「マリーは私にとって最高の女性です。マリーと結婚できて、それにエリーが生まれてきてくれてとても幸せです」

「そうか、それなら良かった」

 そして剛はうっすら笑みを浮かべ続けた。

「内緒にしておこうと思ったのだが……」

「内緒ですか……?」

 剛はしばらく沈黙した後「まりは災いを呼ぶ子として生まれたんだ」と言った。

「災いを呼ぶ子?」

 一回頷くと剛は言った。

「ここに来る途中に大きな寺があっただろう? 造られて600年以上になるその寺の住職にそう言われたんだ」

「そんなの信じませんよ。現にこんなに幸せなのですから」

「私も信じてはいない。だが、ときおりざわざわと胸がざわめくのを感じる。本当に災いがやって来るのではないか、と」

「……」

「……」

 その場が沈黙にそまった。剛はテーブルの上に置かれたみかんをひとつ取り、皮をむいた。ひとふさだけ傷んでいるものを見つけ、それを避けた。

「こんな高級なみかんにもダメなところがある」

 沈黙を破るように剛がそう呟くと、ジョンは「ダメなところがあるから、いいんですよ。完璧なんてあり得ません」と呟くように言った。

「ありがとう、その言葉に救われたよ」

「いいえ」

 剛はジョンをマリーのところに案内すると、自分も寝るためにベッドに向かった。

 ベッドに横になった剛はかつて自分も災いを呼ぶ子と言われた過去を思い出す。しかし、特別大きな災いは起きずにここまで生きてきた。剛はこれからも不幸が訪れないように祈るしかなかった。



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