問題勃発! 2

 次の日、ヴェリアに頼んで、実家――すなわちロマリエ国からの手紙についてリオンに確認をしてもらった。

 すると、とりあえず一度は、フィリエルは現在体調不良で寝込んでいるが、深刻な状態ではないから心配するな、というような内容を代筆して返したそうだが、それっきりだという。


(でも、代筆したってことは中身読まれたのよね。……陛下、引かなかったかなあ……)


 ロマリエ国から届けられる手紙の多くは母からだが、母の手紙も、たまに届く父や兄、妹からの手紙も、内容はどれも似たり寄ったりなものだ。

 要約すると、さっさと子を生め、というものである。

 フィリエルでもうんざりするような内容の手紙だ。それを読んだリオンはどう思っただろうか。

 手紙についてヴェリアに訊ねてもらった際にあいた微妙な間が、リオンの困惑を物語っているような気がしてならない。


(引くよね。あれは引くよね。限度ってものがあるもんね)


 祖国の家族の心配は、フィリエルが子を生むか否かの一点のみだと言っても過言ではない。

 ロマリエ国の家族はリオンの父――コルティア国の前王が大勢の愛人を抱えていたことを知っている。

 フィリエルが嫁ぐ前から、リオンも同じようなことにならないか、フィリエルより先に愛人の間に子ができたら大変だ、などといらぬ心配ばかりしていた。

 フィリエルはコルティア国とロマリエ国の関係強化のために嫁いだのだ。ロマリエ国の家族は、当然、フィリエルの産んだ子が次期コルティア国の国王になることを望んでいる。リオンの愛人(いないけど)の子にその座を奪われてなるものかと焦っているのだ。

 その過度な期待もあって、フィリエルの元には結婚当初からしつこいくらいに「子はまだか」という手紙が届いていた。


(もう結婚して五年以上……もうすぐ六年だからね。やきもきする気持ちはわかるけどさ……)


 フィリエルですら「また来た!」と封を開けるのも嫌だった手紙である。返信を書くためにあれを読まされたリオンに深く同情した。


「体調不良って返信したのはいつのころ何だい?」

「もう三か月以上前だと思うが……」

「体調不良って返信してそのままになっているなら、それ、余計に心配させることにならないかい?」

「にゃ⁉」

(確かに!)


 リオンが額を押さえて天井を仰いだ。


「しばらく手紙の内容は確認していなかったな……」

(うん、あれを読みたくない気持ちはとってもよくわかるわ)


 思わずフィリエルがリオンを見ると、彼もフィリエルに視線をおとして、へにょんと眉を下げた。


「至急、確認した方がいいだろうか……」

「にゃー……」

(気は進まないけど、三か月以上溜まってるなら見たほうがいいと思います……)

「三か月以上放置してるんだ、勝手に重病だと勘違いされてる可能性もあるねえ」


 ヴェリアがくつくつと喉を鳴らして笑った。

 重病だと勘違いしてくれれば、それはそれで「子供!」とせっつかれない気がするので放置してもいい気もするが――あの家族が心配だけして引き下がるとはどうしても思えない。


(なーんか、嫌な予感がするのよね……)


 リオンが、フィリエルを腕に抱き上げた。


「確認しよう。王妃の部屋に積んであるはずだ」


 積んである、という言葉にうんざりしてくる。


 三か月以上放置した手紙は、いったい何通あるのだろう。



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