大切ななにか。
「んっ……あれ?」
ふと意識が途切れたかと思うと、次の瞬間にはまた別の光景になっていた。
放課後のチャイムが校内に響き渡り、生徒たちが一斉に下校し始める。
「これはいったい……」
正直訳が分からないが、それはさっきまでもそうだったのだから今さら特に驚きはしなかった。
シーンが切り替わった、というところだろう。
つまりこれは俺の記憶の断片みたいなものか。
ということはこのまま続けていれば何か思い出すかもしれない。
俺がここに来た理由もきっとあるはず。
「ねぇ、聞いてるの?」
俺の隣には彼女もいた。
「えっ、ああごめん。なんだっけ?」
「もう、だからね――」
夕日に照らされた住宅街を、二人並んで歩く。
どうやら俺と彼女の家は方向が同じで、放課後はいつも一緒に帰っているのだとか。
彼女の話や様子から察するに、それほど仲のいい関係だったようだ。
だがしかし、いわゆる男女の仲というわけでもなく、ただ毎日他愛もない会話をしては笑い合うような、そんな関係らしい。
ただの友達とはまた違うみたいだが、俺はこの関係をどう表せばいいのかわからないでいた。
なぜだか少し胸のあたりがもやもやして、時折急に締め付けられるように苦しく感じる。
この感情はいったい何なのだろう。
「なんか、この時間の雰囲気ってちょっと寂しいよね」
隣で彼女が寂しげな笑顔を浮かべていた。
「なんかこう、今日が終わっちゃうんだなぁって感じ」
「まぁ、わからなくもない……かも?」
「でしょ?」
そう言って静かに笑う。
それから短い沈黙の後に、彼女が再び口を開いた。
「――もうすぐ卒業だね……」
彼女がそう言った瞬間、胸に何かが閊えたような気がした。
「え? ああ、うん。 そう……だね」
またこの感じだ。俺はこの会話を知っている気がする。
「そしたらしばらく会えなくなっちゃうね」
笑顔を浮かべてはいるのものの、声色はどこか元気がないように感じる。
そして俺の次の言葉は確かこんな感じだ。
「まぁ連絡はいつでも取れるんだから、そんなに気にすることないんじゃない?」
「そう、だよね……」
なぜだか少し寂しそうな表情の彼女。そんな姿に、俺は動揺していた。
この光景を見たことある気がするから、ということもあるだろう。けど、それよりもなぜだろう、よくわからない感情が込み上げてくる。
胸が苦しい。
彼女のことを考えていると、なぜかそんな気持ちでいっぱいになる。
「だっ、大丈夫っ。いつだって会いに行くよ、絶対に。約束する」
気づけば感情に身を任せてそう言っていた。どうしてだろう。
それはおそらく彼女が、俺にとって特別な何かだったから。
「うん、わかった。待ってるからね――」
彼女は寂しげな笑顔のまま、どこか遠くを見つめているようだった。
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