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変わらぬものを求めておるのは

いくぶん無理があるとは思いませねば

三途の川のその岸で

六文銭をうっちゃって

勢い勇んで空蝉に 戻り来る

八丁堀の育三郎たァ 俺のことヨ


否々これは異なことを

申せし者もおるもんぢゃァ

これはここよとここにおる

この男こそ育三郎

何処の誰ともいざ知らぬ

お前の名をば聞かせねば

哀れ狂った貧乏人は

地獄はこの世と思わせん


さてこれはまた面妖な

俺が育ならそなたも育と

育は俺の一人だと

思っていたがァ

どうしたものか


どうしたものかもあるものか

こちらが育ならお前は育でなし

ただそれだけの話ぢゃろうて


だがしかし

いやしかし


はてこれはこまったものぢゃ


これでは幾百夜が明ける


それではどうぢゃ

それではなんぞ


此処は和尚に頼みはせぬか

成程頼みは和尚というわけか


いざゆかん

いざゆかん


どちらが育かァ

分かるぢゃろうてェ

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