……うん、甘い。
奈那美
第1話
「ねえねえ、
一月半ば。
昼休みの教室でお弁当を食べながら
「えぇ!有紀、もうバレンタインの話?まだ一ヶ月もあるのに気が早くない?」
一緒にお弁当を食べていた
確かに、まだ一ヶ月も先の話。
だけどコンビニも、おつかいで行かされるスーパーマーケットもお正月が過ぎたとたんにディスプレイはバレンタインデー一色だ。
一応、節分の恵方巻きのチラシが置いてあったり豆が売ってあったりするけれど、そっちはイマイチ取扱いが地味な気がする。
「う~ん。ショージキまだなにも考えてないって言うか。それ以前にあげる人いないし」
「え~?そうなの?前にバスケ部の富田君カッコいいって言ってなかった?」
「いや、言ったけど。それと好きとは違うよ」
「そうなの?カッコいいって言うから、好きなのかなって思ってたよ」
富田君。
隣のクラスの男子でバスケ部のキャプテン。
バスケ部だけあって背が高いし、顔もまあまあ。
成績が悪かったらレギュラーに入れないという部活の顧問の方針のおかげ(本人たちにとっては『せい』だろうけど)で、成績も常に上位をキープ。
女子には人気の優良物件だ。
私は興味がないけれど。
だいたい、さっきの『カッコいい』発言だってビミョー。
放課後、教室に居残りしていつもの三人でおしゃべりして、ドラマの俳優さんがカッコよすぎてたまんないなんて話をしてて───たしか佳織が『うちらの学年でカッコいいって言ったら誰かな?』なんて話題を振ってきて。
野球部の永田君がカッコいいだとか生徒会長の水元君も捨てがたいとか、佳織と有紀ふたりでキャアキャア盛り上がってて。
「里穂は?誰がカッコいいと思う?」って有紀が聞いてくるから仕方なく答えたまで。
それも、たまたま部活が終わって渡り廊下を歩いていた富田君が窓から見えて。
一緒に歩いてた他のメンバーと比べたらカッコよく見えたから口をついて出ただけで。
カッコいいから好きになりそう、だなんて考えはみじんもない。
だって、私が好きな人はほかにいるから。
「私さぁ、加藤君にチョコあげようかなって思ってるんだ」
(ドクン!)心臓が跳ねあがった気がした。
「有紀、加藤君のこと好きだったっけ?」
数日後一緒に帰る道すがら、有紀から聞いた言葉に驚いた私はつい問い返してしまった。
有紀が加藤君のことを好きだなんて、聞いたことがない。
「うん。と、言ってもついこの前好きになったんだけどね」
「……なにか、きっかけがあったの?」
私は問いかける声が震えてないか気になった。
有紀が、加藤君を……好き。
加藤君は、同じクラスの男子。
スポーツができるわけではないし、勉強もそこそこ。
見た目もイケメンというよりは癒し系。
だけど誰に対しても分け隔てなく優しいし親切だから、案外女子に人気がある。
「あのね、この前マラソン大会があったでしょ?」
「ああ、うん。私がインフルエンザで休んじゃった日ね」
「あの日、走ってて転んじゃってね」
「そう言ってたね、あの時のケガはもう大丈夫?」
「うん、軽いねんざだったし。その転んだ時に、加藤君が助けてくれたの」
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