第36話
コンラッドはすぐにカーティスの敵意に気付いた。
だが構えない。
構えからなにかを察せられることを嫌っているから。
あえて言うなら常に構えている。
薄らとマナを全身に纏わせ、いつでも戦えるように備えていた。
訓練された人間が意識してようやくできるそれを、コンラッドは無意識にできた。
それほどまでに練り込まれている。
対峙して初めてカーティスは師匠の強さを真に理解した。
だがそれでもカーティスは気圧されない。
十年前のカーティスなら戦うという選択肢すらなかっただろう。
しかし今のカーティスは違う。
それだけ修羅場をくぐり、成長していた。
コンラッドもそのことを分かっている。だから先程まで見せていた余裕はない。
最初に動いたのはコンラッドだった。カーティスに向けて踏み込む。
しかしその一歩目が床につく前にカーティスは鞭を振るった。
完璧なタイミングでのカウンター。
そのはずだった。
鞭が空振るとカーティスは目を見開いた。
前に出ていたはずのコンラッドが元の位置に戻っている。
コンラッドのフェイントのせいで鞭は床を叩いた。
コンラッドはそれを見逃さない。
鞭が戻ると同時に再び踏み込み、カーティスに接近する。
しかしそこにカーティスの保険があった。
手足を縛る魔術が発動し、コンラッドの手足を拘束する。
その魔術はカーティスに近づく者を自動的に拘束するよう設定してあった。
「おっ」
コンラッドは驚きの声を上げて手足を見た。
「取った!」
コンラッドに向かい、カーティスが鞭を振るう。
直撃は免れない軌道に加え、拘束魔術によって回避も不可能。
だが鞭はコンラッドに当たらなかった。
「なっ!?」
驚くカーティス。
コンラッドは瞬間的に左腕に力とマナを込め、拘束魔術を引っ張って伸ばした。
そこにカーティスの鞭が絡まる。
「よっ」
それを見たコンラッドは腕を引き、鞭ごとカーティスを引き寄せた。
そのあまりの早さにカーティスは鞭を解除するのが遅れ、体を引っ張られる。
至近距離での攻防は一方的だった。
「くっ!」
どうにか抵抗しようと蹴りを放つカーティスだったが、コンラッド相手に体術勝負は無謀だった。
「遅い」
「がはっ!」
カーティスはカウンターで腹に中段突きを喰らうとそのまま檻まで吹き飛ばされ、背中を強く打って沈黙した。
拘束魔術が解けるとコンラッドは安堵の息を吐いて手首を見た。
拘束されたまま無理矢理動かした為、赤く腫れ、微かに血が流れている。
何度も引きちぎろうとしたコンラッドだったが、最後までそれは叶わなかった。
教えていた時とは比べものにならない強度。
傷を見てコンラッドは喜んだ。
「強くなったな」
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