第23話

「お気を付けて」


 王都行きの馬車に乗り込んだコンラッドにロンは荷物を渡しながら言った。


「お前もな。色々と頼んでおいてあれだけど、責任を感じすぎるな。気軽にやれ」


「はい。アレン達によろしく言っといてください」


「おう」


 もう出発しようという時、エリンがやって来た。


「人間。王都に行くのなら一つ頼みをいいか?」


「内容によるな。なんだ? ぬいぐるみでも買ってくるか?」


「ちがう。私の兄のことだ」


「お兄さん? どうかしたのか?」


 エリンは俯いた。


「一年前。兄はピエールを襲い、そして捕まった。それから行方不明なんだ……。おそらくもう死んでいるだろう……。だが、可能性があるならすがりたい。奴は王都の連中と仲が良かったんだろう? だとすれば兄もそこに……」


「いるかもしれない……か。分かったよ。力になれるかは分からないけど、探してみる。名前は?」


「ウォルク」


「ウォルクね。覚えておくよ。そのかわりに大人しくしとくんだぞ?」


 子供扱いされたエリンはムッとした。


「わ、私はお前の娘じゃない。命令するな」


「悪かったよ。じゃあな」


 馬車がゆっくりと進み始めた。


 離れていくコンラッドの背中にロンは叫んだ。


「先生! 世界を頼みます!」


 コンラッドは苦笑して、振り向かずに左手だけ軽く振った。


 そんな彼に業者の男が笑いかける。


「先生? なにか教えてたのかい?」


「昔の話さ。そのせいで厄介なものを押しつけられる。そういうのはもっと若い頃に頼まれたかったよ。体が元気な内にな」


「違いない」


 初老の男は面白そうに笑った。


 コンラッドは頬杖を付きながらゆっくりと流れていく景色を眺めた。


 そして砦であったことを思い出し、呟いた。


「……どうやら、俺にはまだ教えないといけないことがあるらしい」

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