第27話 帰路

「はいじゃ~説教始めるよ~! リロもユーリィも集合~!」


「えっ……えええ~」


「えーじゃないはい並ぶ~。アッシュも足治ったんならちゃんと立つ~」


 素直に整列した俺たちに、わざとらしい怒り顔でルイスは言った。


「実は……ずーっと風の精霊に頼んで君達の見張りしてたんだけどぉ……今回の任務で合格なのは、ユーリィだけだねぇ」


「なぁっ!! なんでぇ?! 大型ドラゴンの子供! 私達二体も倒したんですよぉ?!」


 まぁそうだろうなと思う俺とは正反対のリアクションをするリロ。懇切丁寧に不合格の理由を教えてやらなきゃならいルイスも大変だな。


「あのなぁリロ、俺はペグーの子供を見つけたら教えに来いって言った筈だぞ? 手柄とかどうでも良いんだよ、指揮官の命令をちゃんと聞けるかどうかが一番重要だ」


 今回の俺達の立場を考えれば尚更だよな。ごもっとも過ぎる。

 だけどルイスの手を借りる事なく親パダーまで討伐出来ていたらそんないかにもなセリフが吐けただろうか。そう思って、俺も暴走してしまったが……たぶん結果は同じだろう。

 パダーを倒せる倒せないなんてのは、おそらくルイスにとってとても些細な事なんだ。

 そう思い知った。


「そんなぁ! ごめんなさいごめんなさいもうしませんー!」


「うーん、まぁ保留だな」


 追い縋るリロにルイスは冷たい態度を取って見せるが、その目は優しい。


 そしてその後、ルイスは最初の宣言通りに番のペグーを一人で瞬殺して見せた。

 よく見て今後の参考にする様に、なんて言ってから戦ったのだが、どうせならもっとちゃんと参考に出来る様な戦い方はなかったかのか。

 それは、土の精霊の力でペグーの足元を固定してから、自分専用の特殊な両手剣を片手で操り一瞬で首を落とすと言う……到底誰にも真似の出来ない戦法だったのだ。


 そうしてルイスは、力の差をまざまざと見せつけてから、日が落ちきる前に竜車で俺達をしっかり学校まで送り届けた。


 リロはすっかり大人しくなってしまって、度々ユーリィに慰められていた様だが、竜車を下りる時ルイスに「頑張ったぞ」と頭をポンポンされて一気に元気を取り戻した様である。

 俺は、何から何まで、ルイスには敵わない……。

 と、ふて腐れて帰ろうとした俺の腕をルイスが掴んで引き戻した。


「明日は学校休みだけど、お前は命令違反の罰として明日一日俺の付き人だ。まずは鍛冶屋に用事があるからキルタン広場に十時集合、遅れたら次の休日もな」


「何で俺だけ……」


 さすがに反論しようとした俺の口をでかい手で塞がれこう耳打ちされる。


「シッ! リロに頼んだら……ご褒美になっちゃうだろ?」


 こいつ……!

 いやらしく片目を瞑るルイスに怒りが沸く。ご褒美だと? どれだけ自惚れてやがるんだ。


「国の英雄さんが……付き人の一人も居ないんですか」


「英雄なのにこうも慎ましやかだから余計支持されるのかな~?」


 少しばかり嫌味を言ってやったがあっさりと返された。

 良いさ……。ルイスの信頼を得るチャンス。有り難くやらせて頂くとする。


「じゃっ! 俺はアルバンに報告もあるから今日はこれでな! また明日ぁ~! と、そうそうお前、もう暗くなるしちゃんと女の子送ってけよ? ここまで任務! そしたら解散!」


 仮にもルイス班に入ろうってな奴が、例え女であろうと夜道が危険なワケがあるか。と、そう言ってやりたかったがルイスは風のように去ってしまった。


「別に大丈夫だよ、アン。疲れてるだろうし必要ないよ」


 リロはそう言ってユーリィも頷いたが、ここで送らなかったらまたルイスに負けた気がする。


「疲れてんのはお前らだろ。俺は平気だし、とっとと行くぞ」


 俺の物言いに目を丸くしたユーリィを見て、またキャラを忘れていた事に気付いたがどうにも取り繕う気にはなれなかった。

 もうユーリィにはバレてるんだろうし構うもんか。とは言え、さすがに少し気まずい……。


「何だよ……」


 ユーリィにそう言ったのだが、この微妙な空気に気付きもしないリロが「え? え?」と俺達の顔を見比べている。


「ふふっ」


 そんなリロが可笑しかったのか、ユーリィがふわりと笑った。


「何でもないよ、帰ろう!」


 そうして、いつもの様にリロを挟んで三人で歩く。

 だけど、ここ最近感じていたユーリィからの壁は少し薄くなった気がした。

 それが嬉しいなんて、俺はどうかしている。


 『深入りするな』再三言われたザカエラの言葉を思い出して、その意味を良く考える。

 たぶん、ユーリィの信頼を得るのは悪い事ではない。それに対して嬉しいと思う俺が問題なんだ。


 もっと殺さなくては。自分の心を。


「じゃあ、私はここだから。ありがとう、アッシュ君。リロの事もよろしくね」


 リロの事も……。

 他意のないユーリィの言葉に気が重くなる。


 ユーリィと別れて、リロと二人きりで歩く夜道。嬉しくないぞ俺は。


「ここ! あたしの思い出の場所なんだよ」


 俯き加減で歩いていた俺に、リロが明るい声でそう言った。ハッと顔を上げると、そこは初めてリロと出会ったあの川沿いの船着き場だった。


 まずい……。黙ってたらリロは何を言い出すか分からない。リロの言葉に俺が何を思うのかも今は分からない。

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