最弱召喚士の魔拳無双~俺だけ使える召喚獣装填と召喚獣育成で立ちはだかる奴は全部ぶっ飛ばす!~

吉武 止少

第1話 最弱の召喚士

 良い人、という評価を受けた時、喜ぶべきか、悲しむべきか。

 俺は悲しむべきだと思う。

 特に、良い人と続くときは最悪だ。


「……ごめんなさい。進藤さん、良い人だとは思うんだけど」

「あっ」

「じゃあ」


 日本にオギャアと生まれて17年。俺は人生初めての失恋を経験した……ようなシチュエーションだが、別に告白したわけじゃない。


 都内でも最大規模の新宿迷宮ダンジョンの入場口前で告白とか、いくら鈍感な俺でも雰囲気がないのは理解しているし、そもそも俺は恋愛なんぞにうつつを抜かしている暇はない。


 パーティーを組んでくれないか、と申し込んだのだ。

 相手は攻撃力と速度に定評がある双剣士の女の子だった。


「……おい、進藤。振られたな」

「カズマさん……やめてくださいよ。パーティ申請を断られただけです」

「それを振られたって言うんだよ」


 20代後半のやたら厳つい重戦士のカズマさんがニヤニヤしながら肩を組んできた。


「まぁ仕方ねぇよ。進藤は召喚士だしな」

「そりゃそうですけど……一応、三か月も新人指導員チューターやってたんですよ?」

「ギルドからの依頼で給料も出るし、パーティを組めるとは限らないって説明あったろ?」

「そうですけどぉ……でも指導員と新人がパーティ組むこと、けっこう多いじゃないですか」

「外れジョブじゃなければ、な」


 からかうようなカズマさんの言葉に思わず唇が尖ってしまう。


「拗ねるなよ。進藤の良さは俺たちがよく分かってる。今から俺たちと潜るか?」

「良いんですか? 足引っ張るだけですけど」

「言ったろ。お前の良さは俺たちがよく分かってるって」


 カズマさんがにかっと笑ったので、ぜひお願いすることにした。

 カズマさん率いる『ダンジョン工事団』は元・土建屋の男性だけで構成されたパーティだ。

 ランクはDで、Gランクの俺なんて邪魔になるだけなんだけど、何だかんだと気にしてくれている。

 対する俺は外れジョブ”召喚士”だ。

 本来ならジョブの獲得と同時に身体能力が上昇するんだけど、召喚士は素のままだ。

 握力は22kgしかないし、100メートル走だって13.3秒からまったく伸びない。

 カズマさんが握力300kgで100メートル7秒のゴリラであることを考えると、如何に貧弱か分かるだろう。

 その代わりに強力な召喚獣が——とかだったらまだ救いがあるんだけど、残念ながら召喚士が最初に呼べる一体はスライムかゴブリン、キックラビットと言った迷宮の第一層にしか出てこないような雑魚のどれかだ。

 オマケに、一度死ぬと特別な石を残し、二度と復活しない。つくづく扱いづらいジョブだった。

 

 ちなみに俺は例にもれずスライムである。

 一度召喚すると、ので今も俺の足元で震えている。


 『ダンジョン工事団』に連れられて迷宮に潜る。

 召喚士は外れジョブすぎて諦めるか死ぬかの二択みたいなもんだ。

 だから強くなる方法もほとんど解明されていないんだけど、召喚時間とか、戦闘回数とかが影響する可能性もあると思って、積極的に召喚しているのだ。


 ……まぁ今のところ成果はないけど。


「お、スラぼうは今日も可愛いな。レシート食うか?」

「シュンさんありがとうございます」


 『ダンジョン工事団』の人たちは荒っぽいけど良い人たちばかりだ。

 俺のスライムに飴やサンドイッチ、フライドチキンなどを食べさせて可愛がってくれたりもする。

 食べ物以外も消化できることを知ってから差し入れが食べ物な確率は50%になったけれど、嫌がらせじゃなくて『消化するもの次第では強くなるかも』と俺が話した結果だ。


 しゅわわわ、とレシートを溶かしながら泡を吐き出すスライムを見て、シュンさんはニカッと笑う。


「本当は撫でたいけど、手のひらの皮むけるからな」

「そりゃしゃーねぇ。スライムってのは強酸性だからな。召喚者のアキラ以外は触れねぇよ」

「でも、アキラの荷物も溶かさねぇだろ? 慣れてくれば俺の手も……」

「無理だ無理。スラぼうが食べ終わったら出発するからアキラは荷物持ち頼むぞ」

「はいっ!」


 ぞろぞろと進んでいく『ダンジョン工事団』の後をついていく。一層のモンスターはもちろん、二層のコボルドやニードルラット、三層のスケルトンなんかも問題なく粉砕していく。

 魔法系のジョブはいないので得意や苦手がハッキリしているが、リーダーのカズマさんは思い切りのいい人間なので「逃げろ」「全員でぶちのめせ」等々即座に対応を決める。

 その判断を皆信頼しているし、実際『ダンジョン工事団』は最高で9層まで到達できる中堅パーティになっていた。


 ……本当に、俺なんかのために低層を探索させて足踏みさせるのが申し訳なくなるパーティだ。


「何しみったれた顔してんだ。ナンパに失敗したのをまだ引きずってるのか?」

「そ、そんなんじゃないっすよ!」

「ひでぇ奴だよ。俺たちを捨てて可愛くて巨乳な女の子を選ぼうとするんだから」

「そりゃ俺たちだって女の子選ぶだろ、ばか」

「ちげぇねぇ」

「アキラは変な気ぃ使わないで良いんだよ。まだ高校生なんだから」

「次に俺たちを捨てようとしたら、風俗に放り込んでやるからな」

「ふ、フーゾク!?!?!?」

「そうだ。童貞捨てれば変な女に引っかかることもなくなるだろ」


 ……多分、俺が足を引っ張るのを気にしてるのも気付かれてるんだろうな。

 馬鹿話として笑い飛ばしてくれて、ちょっとだけ心が軽くなる。


「お、おい、見てみろ」

「あ? こんなとこに通路……? マップに載ってるか?」


 訊ねられたので荷物からマップを取り出す。

 ギルド公認のマップは低層はほぼ完璧に踏破しているはずだったが、目の前に伸びる通路は、マップのどこにも載っていなかった。


「……未踏破区域、か。どうするカズマ」

「お宝が眠ってる可能性もあるが、アキラもいるからなぁ」

「カズマさん! 俺のことは気にしないでください! 邪魔なら一人で戻ったり、ここで一人で待ってます!」


 未踏破区域ならば高価な魔道具が眠っている可能性も十分にあった。

 これ以上足を引っ張りたくなくて必死に主張すると、シュンさんが俺の頭をぐりぐりしてくれた。


「馬鹿。三層にアキラ一人じゃあぶねぇだろ」

「俺らが守ってやった方が安全っしょ」

「……そうだな。よし、アキラを囲む陣形で進む。異変があったらすぐ戻るからな」


 俺たちが進むことを決めてから五分。100メートルほど進んだ先は、広いホールになっていた。

 石畳の空間は円形で、端っこには怪物を模した石像がたくさん並んでいる。


 石像のいくつかは燃え盛るたいまつを咥えていて燭台代わりになっており、別のいくつかは鎖を咥えている。


 その鎖を辿ると部屋の中心にあるへとつながれていた。


「……何だありゃ」

「ミノムシか?」

「……普通の部屋じゃねぇな。少し調べるか?」


 部屋の中心にあるものはミノムシというのがしっくりくる物だった。

 細かな何かがべたべたと貼り付けられていて中身が何なのか分からない。その上、鎖で空中に固定されているのだ。

 分かるのは縦長であることくらいだ。


「あれ、何だと思う?」

「分かんねぇ……鎖を切って落としてみるか?」

「やってみっか。おい、シュン」

「ウッス」


 カズマさんの掛け声で、戦斧を構えたシュンさんがピンと張った鎖へと飛び掛かる。

 が、その攻撃が鎖に届くことはなかった。


 振りかぶった戦斧が砕けて地面に落ちる。


「あっ? おい、シュン。何してるんだよ」

「何って……あぇっ」


 シュンさんが振り向く。が、その勢いのまま首がずれて落ちた。

 一拍遅れて振り上げたままの腕がばらばらと小さな肉片になり、胴体が三つに割れて石畳に血と臓物をぶちまけた。


「……は?」


 理解できない現象。

 出来の悪い悪夢のような光景に全員が固まった。ほぼ同時に巨大な扉が勢いよく閉じた。


「と、閉じ込められた!?」

「トラップ部屋か!?」

「こんなトラップ聞いたことねぇよ!」


 それぞれが武器を構えて警戒する中、円周を飾っていた石像の一つが動いた。

 人の顔に蝙蝠の羽根、蛇の尻尾に獅子の鉤爪を持ったそれは、


「がっ、ガーゴイルだと!?」


 20層よりもさらに深いところにしか現れないはずのモンスターだった。

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