第5話 双子の王女 パート5
「トゥルビヨンそのへんにしておきなさい。あなたはゾルダートが手を抜いているのがわからないのですか?ゾルダートはいつでもあなたを殺せるのですよ」
ルーラがトゥルビヨンに警告する。
「そんなことはない。あいつはSランクだが俺はSSランクだぞ」
「あなたは大きな勘違いをしています。『レア称号』で大切なのはレベルなのです。ランクは所詮レア度を意味しているだけにすぎません。ゾルダートは王国騎士団の総大将でありながら、多くの前線で戦いを繰り広げレベル5まで強化した強者。それにひきかえあなたは『レア称号』の力に驕り雑魚ばかりを相手にしてきたので、いまだにレベル1の弱者です」
「そんなのはデタラメだ!絶対に俺のが強い。それを今から証明してやる」
「構いません。しかし、神聖なる決闘なら認めます」
『八咫烏』では己の力に自信があるものは、メンバー内で決闘を申し込み地位を奪い合う事ができる。それを神聖なる決闘と呼んでいる。
『八咫烏』で最強を誇る三羽烏になるには、神聖なる決闘によって勝ち取るかルーラの任命により決定する。そして、ゾルダードは三羽烏の頂点に立つ『黒王』という地位に君臨する。一方トゥルビヨンは最近三羽烏に昇進して日が浅く三羽烏でも1番地位の低い『黒鳥』の地位であった。
「ゾルダート、『黒王』の座をかけて神聖なる決闘だぁ」
「好きにしろ」
ゾルダートは興味がなさげに返事をする。
「外に出ろ!俺が新しい『黒王』なる」
トゥルビヨンは威勢良く言い放ち部屋を飛び出した。
『八咫烏』の本拠地は、王都グロワールから少し離れた森の奥にある洞窟を切り開いてできた自然の居城である。
トゥルビヨンは、洞窟の居城を出て森の中にある少し広い草原に移動した。それを追うように静かにゾルダートも付いていく。そして、多くの八咫烏のメンバーも観戦に向かう。今回の神聖なる決闘は、最近『八咫烏』に入って残忍なやり方でいろんな依頼をこなし、幾度か決闘を申し込み半年余りで三羽烏に昇格した超新星のトゥルビヨンなので、メンバー達はゾルダートにどれだけ通用するのか確かめたかったのである。
「本気でかかって来い」
「・・・」
ゾルダートは何も言わすに巨大な斧を地面から振り上げて戦闘態勢に入る。
「誓約に乗っ取り神聖なる決闘を開催します」
決闘の合図はルーラにより出された。
トゥルビヨンの『風神』の能力は風を自在に操ることができる力である。風を自在に使って攻撃をするだけでなく、自らのスピードを強化したり自在に空を飛行できる特殊な力の持ち主であった。
開始の合図と同時に、ゾルダートは巨大な斧を地面に振り落とした。振り落とされた斧の衝撃で、地面には大きな亀裂が走り半径10m以内に生えていた草木が全て吹き飛ばされたが、そこにはトゥルビヨンの姿はなかった。
「上か・・・」
ゾルダートは静かに呟く。
トゥルビヨンは瞬時に風を操り上空30mの高さまで飛行していた。そして、ゾルダートに向かって上空からトップスピードで急降下しながら風を操り体を回転させた。剣はドリルのように鋭く回転しゾルダートの頭頂部に突き刺さったが、剣は簡単に折れてしまった。
「嘘だろ・・・俺のトルネードスクリューが・・・」
トゥルビヨンが呆然として地面に着地したところを、ゾルダートは巨大な斧を振りかざしてトゥルビヨンを真っ二つに切り裂いた。
ゾルダートの『軍神』の能力は人並み外れた攻撃力と防御力である。レベル5まで強化されたゾルダートの肉体は、剣を砕くほどの強靭な肉体へと変貌している。その為ゾルダートには鎧などの防具を必要としない。
トゥルビヨンは『風神』の力をほとんど見せることなくあっけなく死んでしまった。トゥルビヨンが弱いのではなくゾルダートが圧倒的に強すぎた結果なのかもしれない。
「やはり、手も足も出なかったぜ」
「やっぱりゾルダート様は最強だぜ」
「これで10戦無敗だ。次は誰が挑戦をするのだろうか・・・」
決闘を見ていたメンバーたちはゾルダートの強さを再確認した。
「殺してしまったのですか・・・」
ルーラがゾルダートに近寄り声をかける。
「申し訳ありません。あまりにも弱すぎたので三羽烏の一角には相応しくないと判断しました」
「仕方がありません。また新しい人材を探すとしましょう。それよりも、今回の依頼の件は頼りにしています。王女の護衛は王族近衞騎士団の1つ『極』が担当するはずです。王国近衛騎士団に招聘されるのは少佐以上の階級を経験した者だけですので、くれぐれも気をつけてください」
※王国騎士団はデンメルンク王国が保有する軍隊。王族近衛騎士団とは王族が保有する軍隊。
「問題はない。この国で俺を倒せる者は1人しかいない。しかし、アイツも回りくどい事をするのだな」
「そうですね。でも、体裁を整えるのは大事な事です」
ロード国王は王女の護衛を手を抜くことはできない。あまりにも警護が手薄だと王女が死んだ時に疑いを掛けられるからである。
「今回も俺の部隊だけでいく。足手まといは必要ない」
ゾルダートの部隊は5人からなる少数精鋭部隊である。
「作戦は全てお任せします」
ゾルダートは仲間を連れて森の中へ消えて行った。
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