第16話 モテ期到来?
美海の授業参観のため、徒歩で中学に向かう俺と姉ちゃん。カジュアルさが出ないよう、俺は制服・姉ちゃんはパンツスーツ姿だ。
「まさか中学に行く用事ができるなんてね」
「そうだな。授業参観がなければ2度と行かないか…」
俺達きょうだいは、全員同じ中学出身だ。高2の俺は2年ぶり・大学1年の姉ちゃんは4年ぶりになる。
「私がいた頃と比べて変わった事あった?」
「何もないぞ? 俺が卒業した後に変わったかもしれないけど」
「だったら、時間があれば怪しまれない程度に散策してみましょうか」
「ああ」
姉ちゃんと歩きながら話してる内に中学に着いた。生徒の頃と違い、来客用の入り口から校内に入る。
…今は2限が始まって数分経ったぐらいだから廊下には誰もいないが、気を抜かないようにしよう。制服を着てるから尚更だ。
「美海って何組なの?」
「『1組』だ。姉ちゃん、場所わかるか?」
「ちょっと自信ないわね…。大地案内してちょうだい」
「わかってる」
俺も中2の時に1組だったから、場所はハッキリ覚えている。さて、なるべく足音を立てないように向かうとしよう。
『2年1組』前の廊下に着いたところ、既に保護者らしきお母さん達が6人いる。当然ながら俺と姉ちゃんは浮いているが、近辺で待つとしよう。
教室にいる先生が「入って下さい」という指示を出すまで廊下で待機するように、授業参観のプリントに書いてあったっけ。もうそろそろだと思うんだが…。
「ねぇ君達。どうしてここにいるの?」
俺達から最も近くにいるおばさんが小声で訊いてきた。
周りの人も俺と姉ちゃんをジロジロ見ている。やはり気になるか…。
「私達、荒井美海の姉と兄なんです。忙しい母に代わって授業参観に参りました」
姉ちゃんが率先して答えてくれた。俺1人だったらどうなっていたか…。
「そうなの…。でも君の制服は高校のよね? 今日学校は?」
これは俺が答えないと。姉ちゃんに頼りっぱなしは良くない。
「えーと…、『創立記念日』で休みなんです」
「休みの日に授業参観なんて偉いわ~。ウチの息子は君と同じ高校を卒業したんだけど、『創立記念日』は手伝いをまったくしないで遊びに行ったわね」
「そうなんですか…」
こういう時なんて言えば良いんだよ?
「これからも、きょうだい仲良くしてちょうだい」
「はい」
姉ちゃんと俺は、小声で同時に答えた。
「保護者の皆様お待たせしました。後ろの扉から教室にお入り下さい」
話の区切りがついて間もなく、教室の前の扉から明らかに若い女性1人が廊下に出て来てそう言った。
結局、保護者は俺と姉ちゃん含めて8人か。お父さんは0だから、男枠は俺だけだ。この人数は多いのか少ないのか…。
「私達は一番最後に来たから、最後に入るのよ」
「わかってるから」
そこまで非常識じゃないぞ。
7番目を姉ちゃんに譲ったので、俺は最後に教室に入ってから扉を閉める。
…中学生全員が後ろを向いている。注目されるのは恥ずかしいな。
「この後はさっき伝えた通り『討論』をしてもらうわ。机を合わせてね」
女性の先生の指示を聴いた生徒達は、5人で1グループを作った。…それが“6”しかないって事は、一クラス30人しかいないの?
俺の時は40人ぐらいだったはずだが…。これも時代の変化か。
「保護者の皆様にも『討論』に参加していただきます。お子さんの元に向かって下さい」
つまり、俺と姉ちゃんは美海の元に行けば良いんだな。女性先生の言葉を聴いた保護者達は、それぞれの子供の元に向かう。
一部のグループは保護者が2人になったものの、うまくバラけたみたいだ。参加の有無を事前に確認されたし、これも女性先生の計算通りだろう。
……女性先生は、保護者全員にパイプ椅子を渡した。さすがに立ちっぱなしはないよな。俺と姉ちゃんは美海の近くに座る。
美海がいるグループは彼女含めて女子が3人いるんだが、見知らぬ2人がずっと俺を観ている。俺、変な部分ないよな?
「今回の討論のテーマは『校則について』です。自由に話し合ってね」
校則か…。高校生の俺にも関係ある議題だ。年下の中学生にナメられないように頑張らないと!
「それでは…、始めて下さい!」
「この人が美海ちゃんのお兄さんか~。カッコいいね」
最初に口を開いたのは、さっきから俺を見ていた女子の1人だ。オレンジ色のヘアピンで前髪を留めていて、明るい声に合う活発そうな子だ。
「でしょ? あたし自慢のお兄ちゃんなんだ~」
そう言ってくれるのは嬉しいが、さすがに恥ずかしいぞ。
「……はい、これ」
暗い声を発した見知らぬ女子その2が、俺に小さいメモを渡してきた。さっきの子とは対照的に落ち着いていて、ストレートロングが合っている。
俗にいう“ダウナー系”だろうか? 俺少し苦手かも…。
…他に気になるのは、美海含む中学生女子3人の中で1番胸が大きい事だ。制服の上からでもわかるから見間違えじゃない。
さすがに姉ちゃんには勝てないと思うけど、生で見た事ないから不明だ。
俺はよくわからないまま受け取ってから確認した。そこには…。
「…わたしの〇インIDと番号。登録よろしく」
「えっ…!?」
初対面の人にいきなり渡すのか? 見た目に合わず積極的だ。
「
…見知らぬ女子その1は、素早くメモ用紙に書いてから俺に手渡す。軽く目を通しただけだが、おそらく書いてある事は見知らぬ女子その2と同じだろう。
「手書きマジだるい。学校で携帯使えれば苦労しないのに…」
「ちょっと!? 栞ちゃんと蜜柑ちゃん何やってるの?」
美海は少しイラっとした様子を見せる。
「別に良いじゃ~ん。アタシ達中学生が高校生に会える時は滅多にないんだからさ」
「…同学年は論外。年上の方が好み」
おいおい、グループ内の男子2人が落ち込んでるぞ。見知らぬ女子その2は毒舌のようだ。
「ねぇ美海。討論の前に自己紹介したほうが良いと思うけど?」
このままだと埒が明かないのか、姉ちゃんが助け舟を出してくれた。
「…そうだね。名前がわからないと、お姉ちゃんとお兄ちゃんが困るよね」
「アタシ、
「…
これで女子の名前はわかった訳だが…。
「君達の名前も教えてくれる?」
姉ちゃんは蚊帳の外の男子2人に声をかける。
「僕は
「
「これでみんなの事が分かったわ。私は美海の姉の美空よ」
よく考えたら、俺達もしないとフェアじゃないな。
「兄の大地だ」
これでグループ5人+保護者枠の姉ちゃんと俺の自己紹介が終わった。ここから討論になる訳だが、うまくいく事を祈るしかないな。
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