気づいて
風月(ふげつ)
気づいて
第1話 推し
私は目を疑った。今まで幾度となく夢見ていたが、こんなことが起ころうとは。もう私にとっては青天の霹靂ぐらいなイメージである。なんと、隣の男の子が私の推しのキャラのラバストをつけている。しかも誕生日を祝う限定ものだ。
見た瞬間これはどういうことか理解ができなかった。今まで親友にその話をしても全く通じなかった。親友なので話は聞いてくれるのだけれど、通じない。
私のような中学生が夢中になるのは、男性アイドルがほとんどだ。昨日のテレビにナントカくんが出ていたとか、朝のテレビに今度やるドラマの特集が組まれていて、それを見られただけでも幸せなのだと言っていた。
私もそんなふうに同世代とキャピキャピと推しの話をしたいと思っていたけれど、残念ながらいないのだ。親友は私の影響で、少しずつ染まりつつあるが、本命の男性アイドルの域までくることはない。少し物足りなさを感じている。
そこに、隣の席の男の子が私の推しのキャラのラバストをつけているので、驚いてしまった。しっかり見させてもらったけれど間違いない、私の「推し」ではないか。
でもちょっと変だ、かれは運動が好きでいろんな部活の助っ人をしていると言っていた。どこかの部に所属しているわけではないので、放課後早々に帰っていくのを見る。親友に聞いたら、小学校の時はサッカーのクラブチームに入っていたとのこと。
今でもやっているのかな?取りあえす親友のところに行って、
「ねえねえ、隣の男の子のバックになんだけれど、私の推しのキャラがついている。すごくない!」
と興奮気味にいうと、
「ふ〜ん、よかったじゃない。」
「なんだかテンション低いなぁ。」
「だってあなたの推しでしょ。」
「そ、そうだけれど…。」
「まあ、よかったじゃない。話しかけてみれば。」
「ムリムリムリムリ!絶対ムリだよ。」
「なんで、おたく同士意気投合すればいいじゃん。」
「だって相手は男の子だよ。」
「おたく同士性別関係ないでしょ。」
「いや、ムリだって!」
「じゃあまた一人でオタ活だね〜。たまには話し相手になってあげるよ〜。」
「う〜、いじわる。男の子に話しかけられるわけないじゃん。」
「じゃあしょうがないねぇ〜。」
と言って親友は自分の推しを眺めている。
私だって話したいんだ。でも普段話しことない明るい男子に話すスキルは持ち合わせていない。じゃあ女の子だったらいいか?いやこちらのスキルはあるが高くはない。
結局男子だろうと女子だろうと話しかけられないのだ。昔からそうだ、保育園でも先生の後ろに隠れてお友達とは一緒に遊ばなかった。本を読んでいるのが好きだった。小学生に入った頃も10上のお姉ちゃんの後ろに隠れていた。
小2の頃お姉ちゃんがフランス留学で1年間いなくなったとき、どうしていいか分からず初めは泣いていた。お姉ちゃんはそこのホームステイ先で同い年のおたくの子に染まった。フランスでも日本のアニメや漫画は大人気だそうだ。留学を終えて帰ってくるときにはおたくになって帰ってきた。
そのお姉ちゃんの影響もあって私は同年代の女の子とは少し違う道を歩んだようだ。大好きなお姉ちゃんの大好きなものだから、私も好きになるのは時間がかからなかった。ただ同じ趣味の人には会ったことはない。お姉ちゃんがおたくだが、私もおたくだ。
でもどちらかというとボカロ界隈、音声合成歌唱ソフト界隈が好きなのだ。最近ではゲームも出てきて知っている人も多いのだけれど、やっぱり曲を聴いて和んでしまう。同年代の女の子はアイドルだけれど、私はボカロだっただけなのだ。
今まで会ったことのない同じ趣味の子。女の子なら話しかけてみようかなと思うけれど、やっぱり男の子に話しかけるわけにはいかないよなぁ。推しのマークが刻印されているペンケースからペンを取り出し授業に集中する。
おおっぴらにファンだというと、馬鹿にしてくる子もいるだろうからさりげなくマークが入っているペンケースで我慢している。これも実はそうなんだよ〜と彼に言ってみたいけれど言えなかった。
ただただじっとペンケースを見つめて話したいなぁって思うだけだった。
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