4話
そして桃佳もまた、玉帝と同じような表情になってしまった。
既に桃佳は自分がここに連れて来られた理由を理解出来ず、驚きのあまり口を動かす勇気も、気力も無かった。
そして、その張本人の玉帝に対して変質者を見るような眼差しを向ける。
玉帝は落ち着きを取り戻そうと努めているようだが、それでも慌てた様子だった。
すると、玉帝は先に翡翠の球が付いた棒のような物を、ゆったりとした龍の刺繍が施されている羽織の振り袖の下から取り出した。
それを階の下で倒れたままの桃佳に向かって放り投げた。
その棒が桃佳の前の床に落ちたので、倒れた状態でそれを拾うと55cm弱の長さの紫檀でできている。その棒はらせん状に巻き付いた金色の龍の装飾が施され、その杖の先が龍の頭になっており、翡翠の球をくわえている。
桃佳が怪しそうにその棒というより杖を見探ると、玉帝が急かすように大声を上げた。それを聞いた桃佳が思わず体がビクついて固まってしまった。
「龍召士の小娘よ!そのようなことをしている暇はない!これより
玉帝が桃佳に対して命令口調で言われたことが理解出なかった。しかし、まだ彼の口からエラそうに言葉が発せられる。
「その国の王、
「ハァ?おっさん何言ってんのか分かんないんだけど。今から私が『四鵬神界』の『冬亥国』の『靜耀』ってとこにここから転移させるんでしょ!私がその『龍召士』とかいうやつで、その国の簒奪された王様を玄龍の封印を解いてを召喚出来るようになって、その王様の王位を奪還するために助けなきゃいけないってわけでしょ?」
玉帝が桃佳に命令を下したので、それに対して彼を『おっさん』呼ばわりした。
玉帝は、彼女が自分がそのように言われたことにカチンと来たのか、怒鳴りながら話を続ける。
「だまらっしゃいッ!うぬは向こうの世界を救う為に必要なのだぞ!うぬ以外にも玄龍を含む各五龍王の龍召士が一人ずつうぬの他に四人いる。其奴らと合流するのだ。玄龍の龍召士がまだ幻世から見つかっておらぬが、そやつの代わりにうぬの覚龍珠に四龍王全ての魂を宿らせるのだぞ!うぬがそれらを束ねることが出来ぬのだからな!」
玉帝はそのように桃佳を命令したが、当の本人は彼に対して恐怖と嫌悪を感じつつ、言われたことを理解しようと思考回路を巡らせた。
(と言うことは、私以外にも玄龍を含む五龍王の龍召士がそれぞれ一人ずつ、それと私も合わせて五人いることになるから……って私以外の四人の龍召士の中の一人が本来の玄龍の龍召士なんでしょ?でも、なんでその人の代わりに私が玄龍を召喚出来るようにならなければないの!?)
桃佳は頭が混乱してパニックになっていると、玉帝は彼女の落ち着きの無い姿を見て言った。
「何をうろたえておる!そのようなことしている場合ではない!そういや、
その玉帝が思い出して言った言葉に桃佳はハッとする。
(玉帝が言っている”若い男女“って、
桃佳は玉帝が言った『二刻半前』というのが元の世界で言うどのくらいの時間なのか分からなかった。
それでも、仙空界の『二刻半前』というのが元の世界の5日前という時間に値し、その分、玉龍が言っていたように、元の世界と時空の流れに差があるというのが事実であれば、自分の考えと合致するのだと都合のいいよう捉えていた。
そう考えれば、昌信と美由が失踪して以来、二人の居場所が四鵬神界であることが判明し、桃佳の転移先と同じだということに歓喜した。
(そうか!日髙先輩と美由ちゃん達も『四鵬神界』に転移させたって言っているから、二人ともそっちにいるんだ!私もそこへ転移されるのね!って日髙先輩が『陽招士』、美由ちゃんが『陰昇士』とか言っていたけど、どういうこと!?)
桃佳は二人が元の世界でいう五日前に転移先の世界である四鵬神界に自分より先に転移したのだと推測した。しかし、それが事実だとしても二人の安否が心配で仕方がなかった。
その上、『北辰聖君』と呼ばれる者になぜ、幻世から昌信が『陽招士』、美由が『陰昇士』として召喚されなければならなかったのかという以前に、その言葉自体が理解できなかった。
そしてなにより、なぜ自分が向こうの世界に転移しなければ、転移先である四鵬神界もその二人も『救うことが出来ない』という玉帝が告げたことが疑問に思った。
すると、玉帝が急かすように言った。
「ここで、グダグダしている暇はないぞ!うぬには早く向こうに転移してもらわねばならぬ。龍召士よ、心してかかれ」
それを聞いた途端、桃佳が持っている覚龍杖の先に付いている翡翠で出来た覚龍珠が輝きだしたことに気づく間もなく、彼女自身を光の中に包んでいく。
桃佳は、転移先でどのような事態に巻き込まれるか不安が募ったが、覚龍珠の輝きが増していく様子を見ていると、なぜか懐かしい気分がした。
――まるで、自分が産まれた世界へと戻るような。――
やがて桃佳は、その和やかな空気に包まれて仙空界から姿を消し、四鵬神界へと転移したのだった。
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