圧倒的魔術の才能しかない!

堪ったもんじゃない!

第0話 プロローグ

 エリシア・ヴァリアルトは忌み子として生まれた。


 恐怖の象徴とされる白い髪に悪魔の特徴とされる碧色へきいろの瞳。


 そして何より、人のものとは言えない異形の右腕。


 両親からは嫌厭けんえんされ、大貴族の長男として生まれたが爵位の継承権は持っていないことと同義だった。


 そのため家臣や他貴族からの扱いも悪く、まさに名だけの貴族だった。


 エリシアはまだ八歳だが自分が嫌われていること、自分の居場所がないことを自覚していた。


 どこに居ても嫌な顔をされる。


 そのためエリシアは館の書物庫に入り浸っていた。


 そこには一貴族が持つにはあまりにも多い本があった。


 エリシアはそれを読み漁った。


 童話や歴史書、哲学書、学者の書いた論文まで、古今東西あらゆる本を読み漁った。


 そしてエリシアは一冊の本を見つけた。


 それは昔、名のある魔術師が書いた魔術の入門書だった。


 エリシアは魔術にのめり込んだ。


 そして誰も気づかないうちにエリシアは魔術の才能を開花させていた。


「もっと魔術を使えるようになろう。そうすればきっと、父上や母上、家臣たちだって僕のことを愛してくれるはず!」


「だって魔術はこんなにも面白いんだから!」


 エリシアには愛してくれる両親はいなかった。


 自分のことをわかってくれる理解者がいなかった。


 友達も自分に付いてくれるような家臣もいなかった。


 けれど、魔術の才能があった。


 いや、しかなかった。


 だからエリシアは魔術にのめりこんだ。


 そうすれば誰かがきっと自分を愛してくれる。


 そう信じるしかなかったから。


 これが後に千年に一人の天才と謳われる大賢者の、その物語のプロローグである。

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