13冊目 風を切る屋根



 ある山あいの小さな村に、腕利きの大工、健太が住んでいました。


 健太は、その手から生み出される美しい家々で村中に知られていました。


 彼の作る家は、どれも風の音が美しいメロディとなる特別な設計で、人々から「風を切る屋根」と呼ばれていました。


 ある日、村のはずれに住む老夫婦から、家を建ててほしいとの依頼が健太に届きました。


「健太さん、私たちのために、風を切る屋根の家を建ててくれませんか?」


 老夫婦は温かい笑顔で頼みました。



「もちろんです。皆さんが快適に過ごせる家を建てましょう。」


 健太は嬉しそうに応えました。




 建築が始まり、健太は特別な設計を施した屋根を作り始めました。


 しかし、途中で問題が発生しました。


 使用していた木材が予想以上に硬く、屋根の形状を作るのが難しくなってしまったのです。



「このままじゃ、期日に間に合わないかもしれない…。」


 健太は悩みました。




 その夜、健太は村の木こり、陽介に相談しに行きました。


「陽介さん、もっと加工しやすい木材はないでしょうか?」


「健太か、難しい形状を作るのに適した木材ならある。だが、山の奥深くにしかないんだ。」


「それなら、どうにかして手に入れなければ。」



 健太と陽介は、山の奥深くへと旅立ちました。


 厳しい自然の中、二人は協力して、必要な木材を見つけ出しました。


 帰り道、健太は陽介に感謝の言葉を述べました。




「陽介さん、ありがとうございます。おかげで、美しい家を完成させることができます。」


「健太、お前のその情熱があれば、どんな困難も乗り越えられる。応援しているぞ。」


 新たな木材を使い、健太は屋根の工事を再開しました。


 彼の熟練した技術と、陽介が提供してくれた木材のおかげで、屋根は予定通りに美しく仕上がりました。



 完成した家は、老夫婦の期待をはるかに超えるものでした。


 風が屋根を通り抜ける音は、まるで森の中にいるかのような心地よさをもたらしました。


「健太さん、この美しい家を建ててくれてありがとう。私たちは、この家での新しい生活が楽しみです。」


「いえ、僕もこの家を建てられて嬉しいです。家が皆さんに喜びをもたらしてくれることを願っています。」


 この出来事は、健太がただの大工ではなく、村人たちの幸せを形にする職人であることを改めて証明しました。


 彼の名声は、その後も「風を切る屋根」を求める人々によって、遠くの村々にも広がっていきました。


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