第31話 懇親会1
「・・・あの——、シルヴィ・・・さん?飲みすぎなんじゃあ・・・」
「ん~⁇なぁんか文句あるわぁけぇ?」
あれから1時間が経ち、気まずい空気だったレオとレオに似た少年、イリスは手伝いに駆り出されることで解放され、今は懇親会が開かれていた。
そして———シルヴィアが飲んだくれていた。
「なぁにが、『そうか。なら、せいぜい私を納得させて見せろ』よ!あの舐めた口、二度と言えなくしてやるわ!」
「・・・まじで何があったの?」
呆れ顔が止まらないレオだったが、そんな彼女を介抱しながら話を聞いてやっていた。
———本当に、自分は何もできないんだな———
彼女の話を聞きながら、レオはそんなことを考えていた。今回のこの問題は、レオがどうこうして解決する話ではない。しかし何か力になりたい。そんな思いが彼にはあった。
「———ちょっといい?」
見上げると、二本の剣を腰にぶら下げた青年がレオに近づいてきた。
「————あ、俺はフリーゲン!フリーゲン・メイトライドっていうんだ。よろしく!」
そういって屈託のない笑みでレオに向かって手を差し出してきた。
「よ、よろしく。俺はレオ、レオ・ラザフォード」
「ああ!だから“蒼瞳の獅子”か!なるほどな!専門職は何?あ、俺は剣士!まあ見ての通りだけどな~」
あまりにも積極的に質問してくるので、少しレオは困ってしまった。会話が苦手なわけではない。——ただもう少し離れたところで様子を見たかった。
「俺は一応戦士。あと、神官でもある」
「へえー!そうなんだ!・・・そしたらさ———」
***
どうしてこうなった。
レオはもう今すぐ酒を飲んで何もかもを逃げたい気持ちになっていた。彼——フリーゲンが提案したのは、決闘の申し出だった。といってもお遊びみたいなものだ。それこそ互いの実力見極めるため・・・だろう。まあここまではいい。
しかし気が付くとどうだ。周りがどちらが勝つか賭けを始めたのだ。一緒に過ごしてきたギルバートたちはこちらに賭けているので、負けてしまったら何か申し訳ない。というかなんとなく
・・・と、いうことで今試合が始まろうとしていた。ご丁寧に審判までつけて。
審判を務める金属鎧を着ていた少女が、真ん中に立ち、準備を始めた。
「先に聞く。この戦いは、無益な争いというわけではないな?」
その眼光は何故かどこか険しかった。
「・・・?。ああ。個人的には決闘というより、ちょっとした練習試合だと考えてるけど・・・もしかしてまずい?」
「いや・・・教義上、無益な争いの場合は止めたいからだ。意味のない戦闘は認めたくない」
「教義って・・・もしかして君も神官なの・・・?」
レオは考えた。先ほどまで金属鎧を着ていた上に、この立ち振る舞い、そしてこの無駄な争いを嫌う性格。おそらく———
「騎士神ザイアの聖騎士にして軍人、シエル・タナ―だ。見た感じお前も神官のようだが・・・?」
「糸織神アーデニを信仰してる。あ、向こうも準備ができたみたい」
「む?では、始めるか」
***
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なんだ?嫉妬か?シルヴィアさんよ?」
「うっさい、黙ってろ」
明らかにご機嫌斜めなシルヴィアさんにギルバートは苦笑いが止まらなかった。
「だいたいお前、あいつの彼女でもないだろ?」
「・・・そうなんだけど、そうなんだけど—————!」
———本当、おまえら面倒くさいよ———
でもそれが————本当はありがたかった。
初めての場所は嫌いだ。何があるかわからない。
そこまで考え、ギルバートはふと思った。あの大鎌を持った少女は頭に帽子をかぶっていた。ちょうどギルバートが角をバンダナで隠しているあたりに。
———あいつも・・・・・・なのか?———
今度会ってみたい。そんなことを思いながらレオとフリーゲンの試合を観戦するのであった。
***
ギルバートが酒に浸っているころ、レオとフリーゲンは接戦を繰り広げていた。軽装なフリーゲンなのに対し、レオは重装備。盾こそ持ってきていないものの、フリーゲンの攻撃はそこまで打撃を与えることができておらず、レオの攻撃はかわされてしまっていた。
まさに一進一退。どちらも本気ではないが、結果は見えてきた。
フリーゲンに疲れが見え始めたのだ。どうやら短期戦向きらしい。一瞬のスキでレオがフリーゲンののど元に剣を突き付けた。
おぉ———————————!
あたりから喝采が上がった。
———短期戦で済ませていたら、メイトライドが勝っていたな———
———一撃必殺系の技があったら、レオはたぶん厳しいな————
試合が終わると、あちらこちらで分析が始まった。やはりここに集められた冒険者は精鋭と呼ばれているだけはある。
「あ~あ。負けちゃったか。まあ楽しかったよ!またやろうレオ!」
———いきなり名前呼びか———
思わず苦笑したレオだったが、気持ちは少し晴れていた。そこへ聖職者らしき服を着た青年が二人、レオ達に近づいてきた。
「お疲れ様です。怪我、治しますね」
そういって彼らはレオとフリーゲンに【キュア・ハート】をかけた。
「あ、ありがとう。・・・えっと———」
「僕の名はシュタイン。シュタイン・マクレーン。シュタインって呼んでよ」
彼はニヤリとレオに笑いかけた。どことなく胡散臭い笑みで。
「う、うん。よろしく・・・」
「まあ、自分で言ってもなんだけど・・・怪しいよね、僕の笑み」
ちょっと落ち込んでいる姿にそんなことないよと否定したかったが、否定することができず、黙ってしまった。
「まあまあ、そのうち慣れますよ。おっと申し遅れました。私はオルガ・メランデルといいます。今後よろしくお願いしますね?“蒼瞳の獅子”さん」
「レオでいいよ。敬語じゃなくてもいいし」
「ああ、これ癖みたいなものなんです。あまり気にしないでください」
オルガがそう言いながら握手を求めてきたので、それに答えた。
———シュタインとは逆で、優しそうな人だな————
この言い方ではまるでシュタインは優しくないという風にも捉えられてしまうが、決してそんなことはない。
「それじゃあ!レオ!フラムの奴が呼んでるからまた明日ね!」
「うん、また」
レオはフリーゲンの後ろ姿を見て、子犬みたいだな~と思った。実際、大好きなご主人様に向かって突っ走っていく犬のように見えた。
「そういえば、レオ君あなたも神官らしいですが、何を信仰していますか?あ、突然失礼。僕はあらゆる神の存在について知り、あらゆる種族とともに平和に過ごしたいのです」
「調和ということは、お前は始祖神ライフォスの神官か?蛮族とも調和を願うというのか⁈」
途中から話に参加したシエルが驚き、声を大きくしていった。
「ええ、もっとも自分に降りかかる火の粉は振り払いますが・・・平和を願う者がいるならば、私は喜んでまず話を聞きますよ」
「・・・なるほど。よかったらそこでみんなで話さないか?———教義について」
その後レオは、オルガとシュタイン、そしてシエルといっしょにそれぞれの宗教について軽く話し、親睦を深めあうのであった。
第31話 懇親会1 完
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