第18話—勘違い—

 シルヴィア ソーウェルは嫉妬していた。最近レオとイリスの仲がいいからだ。自分でも考えすぎだとは思っているが、恋は盲目というだろう。彼女は自分で理解もしているし、認めている。ただ納得がいっていない。ことの発端は一昨日だ。そろそろ髪を少し切ろうかとカレンと話していると、シルヴィアはイリスがレオの部屋に入っていくところを見てしまったのだ。それからというもの、しばらく放心状態になり、依頼でもいつもはしないミスが増えてきていっるのだ。ギルバートたち(カレン以外)も大方予想がついており、どうしたものかと悩んでいた。今ギルドホールでも、彼女は意識があまりなかった。

「心ここにあらず・・・って感じですかねー」

 ロークがシルヴィアの前で手を左右に動かして遊んでいた。その手を払うことがないとみると、よほど重症らしいなと思い、苦笑した。

「まぁ大丈夫だろ?ロークだぜ?あいつはそんな度胸ねぇよ。」

 ギルバートもそういって励ましたが、彼女はか細い声で反論した。

「でもただの私の勘違いだったみたいだし・・・それでもまだ私自身諦めきれていないし・・・私の思い違いだったんだよ・・・」

 この場にいたギルドメンバーは、口をそろえて、

「んなわけあるか!」

っと思っていたが、口に出さないでいた。ギルドマスターなんかは生暖かい笑顔で見守っていた。

「・・・もう直接本人に聞いちゃえばいいんじゃないか?恋愛感情は、俺にはわかんねぇが。」

 クライドがビールを机に置きながら答えた。他数名の男子が納得しながら頷いたが、他数名は首を振って否定した。

「無茶言わないでよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?そんなことできたら苦労しないーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 今日一番の絶叫が室内に響き渡った。とはいえ理性が少し残っているのか、それ以上の声のボリュームを出さないようにしたらしい。ただそれでもかなり情緒不安定に見える。その時、突然—

「やっほー!ただいま戻りましたーーーーーー!」

 カレンがギルドホール内に勢いよく入ってきた。手には上質な虎皮を持っていた。

「依頼の報告にきました!」

 よく見ると、受付令嬢も仕事をさぼってシルヴィアの様子を見ていたのだ。ギルドマスターもこの場にいるので、やらかしたという顔つきをしながら依頼報告を受けるのであった。

「そういえばさっきレオとイリスを町で見かけたよ。なんかお店に入って行ったなー・・・なんのお店なんだろ?」

 その瞬間、場の空気が凍り付いた。—カレン、それは地雷だ—

 ゆらりとシルヴィアは立ち上がると、そのまま自分の部屋へ戻って行ってしまった。

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「あれ?シルヴィアは?いつもならここにいると思うんだけど・・・」

 あれからしばらくしてレオが大袋を抱えてやってきた。イリスも隣におり、こちらはちょっとした小物を持っていた。

「・・・あいつなら部屋にこもっているぞ。誰かさんのせいで。」

 ギルバートが面倒くさそうに答えた。他の面々も似たような雰囲気だった。

「え、俺なんかした?」

 レオが焦って聞いた。その様子をみて、ギルドにいた面々はやっぱり面倒くさそうな顔をした。その横で、イリスがやれやれと首を振った。

「やっぱりレオは女心がわかってないね。続きは私が引き受けるから先に準備していてよ。」

 そういって彼女は、シルヴィアの部屋に向かうのであった。

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 部屋に戻ったシルヴィアは、ベッドに突っ伏していた。今日までの出来事をあらためて振り返り、考えすぎだと自覚し直したのだ。振り返ってみると、シルヴィアもよくギルバートを招き入れたり、武術について話したことがあった。それくらいのものだとあらためて思うことができた。そしてイリスにも申し訳ないことを考えていたと悔やんだ。勝手な被害妄想だった。—後で謝りに行こう―そう思っていると、だれかが扉をノックする音が聞こえた。

「はーい。ちょっと待ってね・・・ってイリス?どっどうしたの?」

 思いもよらない訪問に戸惑っていると、イリスは突然、シルヴィアに抱き着いた。いきなりの出来事に混乱していると、抱き着いた手を放し、ようやく口を開いた。

「いやごめん。ウェストが細いのがうらやましくて・・・」

「・・・いきなりそれで抱き着く?!」

 彼女は驚いて声を大きくしてしまった。慌てて口を押えたが、近所迷惑にはまだなっていないみたいだ。

「ごめん。それともう一つ、多分シルヴィアが考えていることは勘違いだよ。懐かしいな。私もそんな時期があった・・・気がする」

「記憶喪失なのに?!」

 シルヴィアは突っ込みたいことが多すぎた。しかしようやく気分がほぐれた。これなら明日以降、普通に過ごすことができそうだ。

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 それから一週間が経った。イリスの言ったこともあり、シルヴィアはようやくおちついて過ごすことができた。ギルドメンバーたちも心配はなくなり、ようやく日常が戻ってきた。そんな感じだった。ギルドホールにいくと、レオが立っていた。

「シルヴィア、ちょっといいかな?」

 レオが満面の笑顔で近づいてきた。何か嫌な予感がした。この流れ、前にも見たことがある。そう思って逃げようとしたが、なんと後ろからイリスが道を塞いできた。

「今日、確か休日だっていっていたよね?」

『ちょっと付き合ってもらえない?』

 助けを求めようと、あたりを見回したが、無意味だった。なんとギルドホールいたギルバートたち全員の服を作ってきたのだ。しかもその人に合わせた服装になっている。後から聞いた話では、せっかく作ったのだから誰かに着てもらいたいからあげたそうだ。

「・・・もしかしてイリスがレオの部屋に入っていたのって・・・」

「いっしょに服を作ってた。スタイルいいから作り甲斐があったよ。そんなわけで、観念してね。」

こうしてシルヴィアの勘違いは解かれ、着せ替え人形にされるのであった。

第18話—勘違い—完

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