一分咲き ―春休み1日目―

春休み1日目なんとなく勉強する気にならなくてスマホを手に取る。そこに衝撃のニュースが飛び込んできた。「HI:LIGHTのサンア 体調不良で活動休止」体調不良とは心配だ。

「一ヶ月ほどの間実家で休養するようだ」

ってことは今この街に帰ってきてる!?

一瞬のうちに心配の気持ちと期待の気持ちでで頭がおかしくなった。

気を取り直して勉強を始めるが早くも煮詰まった。勉強する目標がないとやる気が入らないのだ。散歩でもするかと仕度を整え少ない荷物で外に出た。当てもなく歩いていたのに気づけばいつもの近くの丘に着いていた。そこは知る人ぞ知る穴場スポットで、桜が咲いている時以外はめったに人はいない。住宅も近くにないので人目を気にせずゆっくりできる。歌なんかも歌っちゃったり…できる。まだ桜もつぼみで人もいないだろうし。そこでゆっくり考え事でもしよう。丘を登り桜の木の下に座った。試しに目を閉じてみたら昨日までの3学期の嫌なことがありありと思い出された。ああ…忘れようって決めたのに…。

涙がこぼれた。こんな自分が嫌になっておおきなため息をついた。その時、え…何か…人の気配を感じる。はっと桜の木の反対側を見るとそこに人が寝そべっていた。相手も起き上がりこちらを見る。桜色の髪が綺麗な人だった。大学生ぐらいだろうか。整った顔立ちでまるでアイドルだ。そこではっとした。こんなこと考える前にあやまらなければ。鼻をすすってから「ス…スミマセン。人がいるとは思わなくて。すぐ帰ります。」と言った。彼は笑って「帰らなくていいよ。何か悩みがあってここきたんでしょ?」と言う。私は黙ってうなずいた。彼は「話、聞くぐらいなら出来るよ。」って細く綺麗な指で私の涙を拭った。春風が私たちの間を通り抜けるのを感じた。進路の話から、人間関係の話まで、全て話した。どんな話も彼は優しく頷いて聞いてくれた。嫌なことが春風と一緒に流れて消えていくような、そんな感覚、あの曲を聞いてるときと同じだ…。


30分後_。「今日なんてまだ春休み一日目だって言うのに同じ学校の子達はみんな勉強するからって遊んでくれないんですよ!私より勉強の方が大事なの?って。そう思いません??」そんな話も彼はずっと笑ってうなずいてくれていた。ため込みやすい性格で、愚痴を誰かに話すなんてこと今まで考えられなかったし。なぜか彼とは波長があって。初対面でここまで仲良くなれる人ははじめてだった。 陽向 それが彼の名前。19歳だそうだ。帰り際陽向さんは手を振ってくれた。太陽が似合う素敵な笑顔にはどこか見覚えがあった。また会えるといいな…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る