深夜0時のブランデー・クラスタ

綴音リコ

アイ・オープナー ー1- 硝子細工の青年

 カシャリ、シャッターを切る。

 レンズ越しに映る光景は美しく、東雲彩斗は押し殺していた息を吐きだした。よくある撮影現場で、彼だけが光を纏って輝いている。


「アカリくん、いいよぉ! 次こっち目線ちょうだい」


 彼がつい、と視線を動かす。無機質な金糸雀の瞳がフラッシュに反射して、きらきらと煌めいた。


 柔らかな茶髪に差し込むイヤリングカラーのステラブルーと、金色の瞳。シンプルなシャツとスキニージーンズは、彼の細身の体躯をより引き立てている。麻紐で縛っただけの簡単な花束で口許を隠したまま、彼はまっすぐにカメラを見据える。


「今日調子いいね! 今度は目を伏せて、ちょっと微笑む感じで!」


 要望通りに、彼は瞼を軽く閉じ、品よく唇を釣り上げてみせる。その笑みに、その場にいた女性がうっとりとため息をついた。


 儚げで、少しでも傷つけたら壊れてしまいそう。そんな印象を抱かせる彼は、まるでガラス細工のようだ。


 東雲も同様に、ため息をついた。しかしその真意は、その笑みを自分に向けてほしいと考える彼女たちとはきっと異なるだろう。


(もしも、俺があの人を撮れたなら)


 自分のカメラで、自分の言葉で、一等美しいあの人の瞳を、あの人の姿を、カメラに写したのなら。彼は一体、どんな表情をしているのだろう。


 彩斗は焦がれるような瞳で以て、スポットライトを浴びる彼を見つめ続けた。

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