森雪の貞操
そんな事より夫婦の初夜だ。昨夜のフェリーでも良かったんだけど、どうせならこっちの旅館にしようとなったんだ。これだけお互い待ちぼうけを喰らわせられたものね。言うまでも無いけど婚前交渉は堪能するほど重ねてる。
いやあれでアリスが昇天するほど堪能させられたからプロポーズを受け入れたと言っても良いぐらい。アリスだって男の経験はあるけど、とにかく誰にもイクどころか感じさえしなかったから不感症疑惑を真剣に悩んでいたんだ。
そんな疑惑を根こそぎ吹き飛ばしたのが健一だ。それこそ銀河系どころか大マゼラン星雲まで吹き飛ばしてくれた。
「十四万八千光年か」
それ古いよ。今は十六万八千光年になってるんだから。あの作品は山ほど続編群が作られるアニメ史に残る金字塔的な作品だけど、女の扱いに不満が残る。
「ヒロイン役は森雪だよな」
キャスティングにヒロイン役を配するのは当然だ。むさ苦しい野郎どもだけの航海なんて暑苦しいだけだ。そんなもの誰が見るって言うんだよ。だから森雪がヒロイン役として出て来るのは当然なのだが女が少なすぎるんだよ。
「それってフェミ的なバランスか?」
アリスはツイフェミどもに興味も関心も無い。そこには触れるな。あの船の航海はざっと一年だ。それも実質的に寄港できたのはイスカンダルだけしかない。さらに言えばイスカンダルだってスターシャと古代の兄しか住んでいない。
他にも修理だとかで寄港した星もあるけど、それこそ人どころか辛うじて生物がいるかいないかの荒涼としたところだ。それ以外は船内にひたすら暮らす事になる。大きいと言っても閉鎖空間に閉じ込められていることになる。
船外は宇宙だから通常の船の様にデッキに出て海を眺めることさえ出来ない完全なる閉鎖空間だ。さっき女が少なすぎると言ったが、実質的に森雪一人しかいないとしても良いと思う。
さすがに古い作品だから断言はできないが、森雪以外に登場した女はいなかったはずだ。少なくとも恋愛対象に出来るような女はいなかった。つまりだが男が多く、女が極度に少ない、つうか一人しかいない状態になるとどうなるかだ。
「男性乗組員から親切にしてもらえる」
てめえの頭はお花畑か。あの船は軍艦だ。男どもは完璧すぎる禁欲状態に置かれてるんだぞ。それも船内から一歩も出れない閉じ込められた状態だ。そうなった男どもがどうなるかぐらい想像できんのか。
「わかった。争って恋人にしようとする」
アホか。それは学園ドラマじゃ。閉じ込められて禁欲状態に置かれた男どもなんて女に飢えた野獣になるしかないだろうが。そんなところに森雪が一人でいるんだぞ。少しでも隙を見せたら襲われる危機感を感じない女がいれば顔を拝みたいわ。
ちなみにこの作品以降はこの問題にも配慮したものになっているで良いと思う。わかりやすいのはマクロスだ。マクロスのブリッジなぞ艦長以外は女だらけだ。さらにだ、軍艦であり軍人であるのに恋愛自由でエッチもやり放題なってるぐらいだからな。
だがイスカンダルに向かうこの船はそうでない。航海が進めば進むほど野郎どもの女に対する飢えは高まるだけだ。そうなると隙を見せない自衛では追いつかなる。そうなれば森雪はどうするかだ。
「貞操帯でガードする」
子ども向け番組に貞操帯なんて持ち出せるか! 大人向け番組でも無理だ。エロビデオでもまず使われないからな。まあエロビデオで使うシチュエーションにすれば尺が長くなりすぎるも現実問題としてある。使われるとしたら調教物のエロ小説だろう。
それにだ。たとえ貞操帯を使っても真田やアナライザーなら易々と解除してしまうだろうし、真田やアナライザーじゃなくともあの船は軍艦だ。貞操帯ぐらい壊せるツールはいくらでも転がっている。
つうかさ、貞操帯って言っても付けっ放しのはずないじゃないか。オシッコやウンチは未来技術で対応出来ても臭くなるを防げるものか。入浴の時に洗おうとして外しただけで、チャンスと見て男どもが雪崩れ込んで来るだろうが。
そういう状態に置かれた女の自衛法は古来から決まってる。相手は女に飢えた野獣どもで、それも群れでいる。そういう野獣の群れを制御する方法は一つだ。それは暴力による支配だ。
簡単な話だよ。その群れで最強の男に守ってもらうのさ。これも守ってと頼むだけじゃ無理だ。最強の男だって飢えた野獣の一人だからな、守ってもらうために差し出すものを差し出すのを知らない女はいないだろ。
「それって、や~さんの・・・」
それしかないだろうが。群れで最強の男の女になるんだよ。そうなることでその男の庇護を得られるんじゃないか。あの船は閉鎖環境だから森雪を襲った男がいても遠くに逃げることは出来ない。だから森雪は古代を選んだ。
そうすることで森雪を襲った男には、森雪の男である古代から殺されかけるぐらいの制裁を受けることになる。その制裁の恐怖が庇護であり、森雪の安全保障になる。その恐怖は男が強いほど効果は強くなるから群れで最強の男になり、それが古代だ。
「沖田って選択は?」
論外だ。そんなもの絵にならん。ジジイと孫娘の変態カップルなんて誰が見たいか。これは実話じゃなくドラマなんだぞ。
「だから島は選ばれなかったのだな」
いや森雪は島にも保険をかけている。古代は船内最強の男ではあるが戦闘班長だ。戦闘班長はブリッジから波動砲も撃つが、コスモゼロに乗っての出撃も日常茶飯事なのがあの航海だ。つまりは戦死してまう確率も高くなる。
島も弱い男ではない。古代に次ぐかもしれない。さらに島の良いところは航海班長だ。戦闘班長の古代より戦死する確率はずっと低い。言うまでもないが島とて戦死する危険はあるが、船の舵を握る島が戦死するような事態になれば船も終わりになり森雪も終わりだ。
「なるほど森雪は二重の安全保障を狙っていたのか」
そうだがそれは同時に森雪の弱点、いや致命的な弱点になっている。森雪は古代と島に保険をかけるために小細工を弄している。
「二人に色目を使うとかか」
そんなものは初歩の初歩だ。森雪は古代と島を操るために自分の貞操を使っている。男はとにかく処女が好きなのは言うまでも無いだろう。自分の初物を古代と島の鼻先にぶら下げて利用しようとしたのだ。
それで二人は操れるかもしれないが、その分だけ庇護の安全保障が下がってしまう。男は自分の女にしてこそ命を投げ出しても守ろうとする。自分の女でもないのにそこまでして守ろうとするものか。
古代や島とて二十四時間森雪を守れるわけじゃない。どうしたって森雪だけになる時間が出てくる。部屋で寝る時なんかそうだろうが。だから森雪を襲う野獣どもは出てくる。これは放映されたドラマでさえあったぞ。
あれはトチ狂った藪助治たちがイスカンダルで森雪をさらったものだが、あれが現実ならレイプされるしかない。それも相手は十一人だ。そうやって穢されてしまった森雪を古代や島がどう見るかだ。
見るところ古代も島も童貞であるだけでなく潔癖なところもあるとして良いはずだ。森雪の二人にとって大きな価値は初物だ。それが失われてしまった女への興味や関心は未知数過ぎるだろうが。
「そこだけどアリスの設定なら森雪のレイプは避けられないのでは?」
それは違う、まったく違う。森雪が古代とやって完全に古代の女であることを明示していたら、森雪を襲えば半殺しでは済まない濃厚なサインを古代は発信する。それを踏み破れないからこそ船内最強の男の価値がある。
森雪は小賢しい浅はかな女だ。あの船内状況で自分がどうなるかをまったく見えていない。そもそも女の努力だけでレイプが避けられるものか。あの船での航海に乗り組んだ時点で積極的な防御策を行わない限り待っている運命は一つしかない。
「ならどうやったら?」
何度も言ってるだろうが。森雪は公衆便所になりたくないなら専用便器になり、専用便器であることを船内に周知する以外にない。まだわからんか。トットと古代に股を開いて専用便器にならなければ公衆便所になる運命しか待っていない。
「古代が戦死したら」
すみやかに島に股を開き島の専用便器になるしかないだろう。島だって二人目だから一人目だった古代ほど熱心にならないかもしれないが、島だって禁欲生活で溜まりまくってるだろうし、処女じゃなくっているにしても森雪を専用便器に出来る魅力は大きいはずだ。
ここまで言えばわかるだろう。あの船に乗り込んだ時点で森雪の選択は二つしかない。公衆便所になるか、専用便器になるかだ。そこにどっちも嫌だはない。どっちも嫌と頑張っても待っているのは公衆便所だ。
だから女なら専用便器として生きる道を選ぶ。女にある選択権は誰の専用便器になるかだが、これだって選択を誤れば待っているのは公衆便所だ。だから森雪に残された道は古代に股を開くしか最初からなかったってこと。古代の次が島だ。
「あそこに斎藤がいたら」
それなら斎藤だ。斎藤は歩兵だったから、航海中はヒマを持て余している。ヒマをもて余した男があの船の中でやることは一つしかない。そうなれば森雪も帰る頃には腹ボテになってるかもな。もっとも斎藤ではヒロインの相手としては役不足だから、最初のシリーズには登場させなかったんだろう。
それにしても、つくづくアホな女だ。そんなに公衆便所になりたかったとでも言うのか。世の中にはそういう女もいるのは否定しないが、まだ処女なのにそうなれる妄想をパンパンに膨らませてわくわくしながら乗り組んだのならマゾの極致みたいなものだぞ。
「いつも思うけどアリスはヒロインに手厳しいな」
そうじゃない。シナリオライターから見た素直な批評に過ぎない。古い作品ほど女の扱いが御都合主義でエエ加減なのが許せないだけだ。あんな男にだけ都合の良い女ばかりがいるものか。ちいとはリアリティを考えろ。
「よくわかったけど一つ提案がある」
なんだよ。これからあの作品がハイジに冥王星まで殴り飛ばされ誰も覚えていない駄作になるずだったのが、アニメ史に残る金字塔的作品にどうしてなりえたかの話をしたいのに聞きたくないのか。
「興味はあるけどさぁ」
なんだその奥歯に虫歯でも出来たような言い方は。それとも親知らずか。痛いのならトットと抜いて来い。親知らずなんか後生大事に抱えていても百害あって一利なしだ。まあ抜かれるのは痛いだろうけどな。
「歯はお陰様でだいじょうぶだけど、そろそろイスカンダルへの航海をやめてくれないかな」
なんだと! このアリス様の話を聞きたくないのか。
「そうじゃなくて黒川温泉に戻って来てほしいのだけど」
しまったやっちまった。この温泉のこの部屋に何をやりに来たのか忘れてた。それも目の前に布団まで敷かれてるのにだ。この状況で新婚夫婦がやることは決まってるじゃない。言うまでもなく夫婦に国家が認めた権利の行使だ。
それもだぞ、三か月もお預け状態にしている夫婦の初夜だ。これを楽しみにし、これを目的としてツーリング旅行に出たようなものじゃないの。森雪の貞操問題なんかクソ啖えだ。こんな失敗をこんな時にするとはなんたる不覚。
「そんなに落ち込まなくても良いよ。いつもの事じゃないか。放っておけば朝まで止まらないのは良く知ってるけど、さすがに今夜は戻って来て欲しかったかな」
それは慰めにならないぞ。傷口に塩じゃなくて唐辛子を擦りこんでるようなものだ。ワープ一発で黒川温泉に戻り待望の夫婦の初夜だ。これをやらなきゃ意味がない。今度こそ。今度こそだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます